2018年2月18日日曜日

豆本の世界9

 その古くて厚い本は、自分の中に収められているのが、壮大な、かなしい詩であることを知った。それを知るのに要した三百年の歳月は、己の体である紙や革の傷みで感じていた。
 本は、涙を流した。ポロリと零れ落ちた涙は書棚を転がり落ち、短い、かなしい詩を収めた豆本となった。
 「この豆本を誰かが拾い上げるのはいつのことだろう。きっと私は、かなしい詩とともに朽ちるのだ」と、本は思い、また涙を流した。

2018年2月11日日曜日

豆本の世界 8

国家にはそれぞれ固有の豆がある。国が増えれば新種の豆が誕生し、国が滅びるということは、ひとつの豆が絶滅することを意味する。
その国の一番大きな図書館の奥深くに、国の豆のすべてが書かれた小さな本がガラスケースに収められている。豆の品種名や詳細な栽培方法、おいしい食べ方が細かな文字でびっしりと記されている豆本だ。
その豆本もまた、国が生まれ、中央図書館が建てられるといつの間にか現れる。
図書館の館長が豆本の誕生を王に報告する儀式は、王の戴冠式よりも盛大に行われる。

2018年2月3日土曜日

豆本の世界7

世界中の書物が豆本になると、本には必ず虫眼鏡が付くようになった。本の内容に合わせて装飾を施された虫眼鏡は、書物以上に珍重された。愛書家の書棚はみるみる小さくなったが、虫眼鏡を陳列するための棚は、かつて本が豆本ではなかったころの書棚よりも大きくなった。