2014年10月30日木曜日

十月三十日 渋滞

よちよち歩きの人々と、よろよろ歩きの人々が、朝のお散歩中に遭遇した模様。



2014年10月26日日曜日

フィドル・パブ

「酒が飲みたいって? 生憎、ここにはパブなんて一軒もないよ」
 赤い顔をしたおじさんは言った。おじさんは一体どこで飲んできたんだ?
「そんな顔をするな、ここにパブはない。だが、呼ぶことはできる」
 おじさんは着古したジャケットのポケットから、小さな小さなバイオリンを取り出した。
「フィドルだ」
 マッチ棒みたいな弓を器用に指先で摘み、おじさんはフィドルとやらを演奏し始めた。それは思いのほか大きな音で、夕闇の田舎町に響いた。
 呆気にとられていると、いつのまにやらアコーディオンの音色まで聞こえてくる。どんどん楽器が増えていく。
 風が吹く。なんだかよい香りだ。
「ほら、そろそろ来るぞ、よーく見てな」
 そう言われて、思わずパチクリ瞬きすると、そこはもう賑やかなパブの中なのだった。手にはウイスキーの入ったグラス。
 おじさんはお客たちの合間を歩きながら、陽気にフィドルを弾いている。ミニチュアのフィドルじゃなくて、普通の大きさだ。
 ウイスキーを一口飲み、顔を上げると、おじさんが近くまで来ていた。
「ほら、パブがやって来ただろう?」


 


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アイリッシュパブのほら話投稿作
松本楽志賞 受賞



2014年10月24日金曜日

十月二十四日 どんぐりひろい

よちよち歩きの人々が、我先にとどんぐりを拾っている。


みな真剣である。


小さな人々に囲まれたどんぐりの木もまた、真剣である。


どんぐりを落とす。次々落とす。


コトン、と頭にどんぐりが落ちて、人々は大喜びである。


秋である。



2014年10月23日木曜日

十月二十三日 落ち葉

図書館の椅子に腰掛けようとしたら、足元に落ち葉が落ちていた。赤く色付いた葉。


今しがた立ち去った人を目で追いかけると、そうと知らなければ気がつかないほど控えめに、


はらり……はらり……と、落ち葉をひとひらずつ落としながら歩いていた。


姿勢のよい、白髪交じりのご婦人であった。



2014年10月16日木曜日

十月十六日 昼日中、住宅街の光景

道端にしゃがみこんでカップラーメンを作る若い女が二人。


それを道の向かいから眺める杖を持った老婆は、植え込みの段に座って休憩中。


両者の間を、十八人の一歳児がよちよちと闊歩していった。



2014年10月12日日曜日

十月十二日 姫

メガネを掛けた隣国のお姫様が城を探していた。


「これはこれはお姫様。お城へご案内いたしましょう」


お姫様は電車に乗ってお一人で城を訪ねてきたのだった。


無事に城へ着くと、お姫様は弾ける笑顔で城へ入っていった。



2014年10月11日土曜日

十月十一日 川沿いを歩く

川沿いの道をズンズン歩いた。景色もろくすっぽ見ずに、歩いた。


なぜそんなに脇目もふらずに歩くのだ、と小走りのウサギに問われたが、自分でもわからない。


でも、川沿いの道でなければならいのだ、今日は。


脇目はふらなかったが、鼻は秋の川の匂いを敏感に嗅ぎ分けていたから。


歩いて歩いて、お腹が空いた。焼き鳥屋で乾杯。



2014年10月8日水曜日

十月八日 皆既月食

蘇芳に染まった月に向かって、伸びをする猫。



2014年10月6日月曜日

十月六日 台風の後には

長く続いた雨が止み、突然晴れた。


ウサギは長靴で飛び出して行く。


「もう雨は止んだのに、長靴?」


「もう雨は止んだから、長靴」


自転車でわざわざ水溜りを狙って走る小僧を、長靴を履いたウサギが大喜びで追いかける。