2011年7月27日水曜日

鳥の巣のさまざま

鳥の巣といえば、小枝や獣の抜け毛を集めて作ることが多いわけだ。
まれに都会のカラスが人間の道具を材料にすることもある。
このカラスは、それどころではない。人間に指示を出して作らせるのだ。
飼われたこともないのに、人語を覚えたこのカラスは、よりによって建築家の家のバルコニーに居座って、とうとう建築家に巣を作らせた。
建築家は、よりよい材料を調達し、カラスの求める巣を作り上げた。
カラスはそこで子を作り育てたが、毎日テレビカメラが来るのは、予想していなかったことだった。
建築家はカラスの巣の掃除に余念がなかったが、それを上回るペースでカラスと子供たちはフンをして、思う存分に巣を汚してから、巣立っていった。

2011年7月23日土曜日

ゴー・ストップが分る犬

そこいらをほっつき歩いている野良犬に「ストップ!」と声を掛けてみる。
そこでピタリと止まった犬は、合格だ。家に連れて帰る。
幾日かしたら、寝ている犬に「ゴー!」と行ってみる。
立ち上がって歩き出せば合格。寝たままだったら、元居たところに返す。
合格した犬は、私が乗って、三輪車代わりにするのである。
三輪車なんかより、ずっと格好がいいと思う。
背が伸びたら、犬になんか乗れなくなるわよ、と母さんが言う。
そんな未来のことは、まだわからない。

2011年7月14日木曜日

昼寝で見る夢

 昼寝をすると、大概、おかしな夢を見る。一番よく見るのが、歯がぼろぼろと抜ける夢で、口から次々と歯が溢れてくる。吐き出しても吐き出しても歯が溢れてくる。もっともこれは、私が酷い歯軋りをするせいだろう。
 次に多いのが、蔦のようなものが腕に絡まり、身動きが取れなくなる夢。次第に頭にも絡まり、段々と痺れて息苦しくなり、焦る。これは腕や手を頭の上で組んで寝る癖があるからだ。きっときつく組み過ぎて、それで痺れてしまうのだと思う。
 どちらにしろ、睡眠中の身体感覚が夢に現れているだけの話だ。
 今日も私は午睡を貪り、夢を見た。
 夢の中の私もやっぱり寝ている。昼間だというのに、なかなか温まらず、布団を顔まで被っている。
 目を閉じて、布団を被っているのに、部屋の様子が見える。透視だ。だが、夢の中の私はその能力について疑問を持っていない。
 布団の傍に男がいる。男は、床から突き出る手を引っ張り上げている。その動作を繰り返し、何人もの女が現れる。大勢の女と、一人の男が私の布団を取り囲んで布団の上から私をくすぐり、ひっかく。布団の中で痛痒さに耐えながら、そっと眼球を動かし、私は男たちを観察する。
 突如、男が欠伸をした。それを合図に女たちが一斉に私の布団を捲る……!
 そこで目が覚めた。たった今の話だ。やっぱり、昼寝で見る夢はロクでもない。夢の中の痛痒感は嘘ではなかったのだ。酷い蕁麻疹が出ている。
 そして、布団の周りには夥しい数の、女の手が落ちている。

怪談大賞に出さなかったもの。

2011年7月13日水曜日

海鳥の子のお稽古

巣立ちの稽古をする子等のために、海鳥の親はタンバリンを用意した。
羽ばたき、足踏みする度に、タタタンッタタッタタン、とタンバリンが鳴る。
親が手本を示してやれば、タタンッタタン、と小気味よい。
そのうち子等もリズム良くなってきた。巣立ちも間近だ。

2011年7月12日火曜日

釘づけの家守

あるところに、大量の錆び釘が入った壷に落ちてしまった家守がいた。
家守は、壷の壁をよじ登って脱出を試みたが、釘が痛くて思うようにならない。
諦めて死を覚悟していると、漬物が大好きな坊さまがやってきて、
「おや、こりゃ珍しい。家守の釘漬けじゃ」
と言って、ペロリと食べてしまった。

2011年7月6日水曜日

鳥の生活

鳥は、少年にずいぶんかわいがられていた。少年は貧しかったが、自分の食事を抜いても鳥の餌代は惜しまなかった。
鳥は丸々と太り、飛べなくなった。一晩中、窓から通りを眺め、よく聞こえる耳で人々のお喋りを聞いた。
朝、少年が帰ってくると、鳥は今日聞いた話を少年にそっくり聞かせた。
鳥の話には、たくさんの登場人物がいた。酔っ払い、チンピラ、老人、ぺてん師、そして娼婦。
少年は、娼婦に恋をしていた。姿を見たことはない。鳥が真似する声で、少年は覚えたての自慰をする。
それが済むと「もうそんな仕事はやめにしなよ」と、太った鳥に語り掛ける。

太った鳥は、毎晩、窓から「もうそんな仕事はやめにしなよ」と少年の声で、娼婦に繰り返し語り掛ける。
幼い娼婦は、声が聞こえたような気がして窓を見上げるが、いつだってまんまるの羽根の塊がぼんやり見えるだけ――

2011年7月2日土曜日

象の群が山火事を消した話

真っ先に山火事に気がついたのは例によって鳥たちだ。
鳥たちの大騒ぎで混乱に陥るたちの中で、象だけは冷静だった。
象は火を消してみようと相談した。
そりゃあ、自慢の鼻を使えば水を撒くなんてことは簡単だ。だが山火事には太刀打ちできない。
そこで象たちは考えた。
重たい象の上に牝が、その上に若い牡が、その上に仔象が乗ったら、ずいぶん空に近づいた。
象ビルディングがたくさん建つと、下の象から上の象へ、水を汲み上げた。
仔象たちは喜んで水を空に撒き散らす。
虹が出来た。象は一斉に吠えた。
雲がやってきた。また一斉に吠えた。
雷鳴が轟く。負けじと吠えた。
雨が降った。

山火事が収まると、もう一度、虹が出来た。