2011年3月29日火曜日

土星が三つ出来た話

二つ目の仕事は、土星にプレゼントするための輪を作ることだった。
これも、「月の人」が交代するたびに行われる儀式のひとつらしい。
何度か作り直しをし、ようやく満足のいく出来栄えの輪を作り上げ、土星もずいぶん喜んでくれた。
「上手く出来たじゃないか」と、旧お月さまも褒めてくれた。
輪の変化に気がついたのだろうか、天文学者が寄稿した「かつてなく美しい土星」と題した記事が新聞に載った。
なんとも照れくさい気持ちになりながら、新聞をスクラップして、壁にピンで留める。
気がつくと、机の上に置いてあったはずの失敗した土星の輪がなくなっていた。星たちに訊いても、わからないという。
翌日、新聞一面に「フェイクサターン現る」との記事と、二つの偽土星の望遠鏡写真が掲載された。

2011年3月21日月曜日

赤鉛筆の由来

月の人としての最初の仕事は、赤鉛筆を削ることだった。
小刀で尖った芯を削り出すことは、大変に集中力の要る仕事だ。
あまり器用ではないから、何本も失敗した。

この赤鉛筆は、普通と違うところが幾つかあった。
ひとつめは、書くと確かに赤い線が書けるのだが、見た目は黒鉛の鉛筆であること。
もうひとつは、とてもよい薔薇のような香りがすること。
どうしてだろうかと、旧お月さまに訊いてみる。
「赤鉛筆が薔薇の香り? レモンの香りしかしなかったぞ」
兎に角、その赤鉛筆で毎晩月の機嫌を記号で記録することが、これからの日課となるらしい。

2011年3月19日土曜日

月夜のプロージット

か細い月が出た夜、黒い箱は音もなく開いた。

お月さまの家は、意外にも近かった。
そこはずっとずっと長い間、空き家だったところで、子供の頃「お化け屋敷」と呼ばれていた家だった。
招かれて行ってみると、空き家だった時間がなかったかのように、家は何食わぬ顔で温かそうにしている。
「いらっしゃい。新しいお月さま」
そう言われて、今夜が「その時」なのだと気がつく。

小さな黒い箱には、小さな盃が入っていた。
「さて、乾杯しよう」
旧お月さまは、手にグラスを持つ。
「Prosit」
盃とグラスを合わせたら、「カリン」と高く軽やかな音がした。
「これでキミは月に帰れるのだ」

2011年3月17日木曜日

黒い箱

「キミにプレゼントがある」
と、小さな黒い箱をお月さまに手渡された。
「開けてもいいんですか?」
「箱と呼ぶものがすべて『開く』とは限らない」
確かに、この箱は、継ぎ目のまるでない、真っ黒な立方体だった。
だけれども、中でカランと音がする。
「何が入っているんですか?」
「さてね。今度の新月が過ぎればわかるよ」

その「今度の新月」は、お月さまの家に招待されるそうだ。
家? そういえば、お月さまに家があるとは知らなかった。
いつも月に帰っていたから。

「一千一秒物語」のタイトルも残り10個を切りました。
なんだか終わりに向けて、勝手に動き出していますが、自分でもどうなるのかわかりません。プロットのようなものは、何もありません。

今までも、連作の体になっているものはありましたが、どうも今回の書き味は違っているのです。
たとえば、前回の「四千四秒物語」のときは、キャラクターが生き生きと動いてくれました。
今でも彼らは私の中でちゃんと生きていて、いつでも書けます。

今回は、ピンホールで向こう側を覗くように、書いている間だけ、ほんのちょっと覗き見る感じです。
一編を書き始める前も、書き終わった後も、すっと暗くなってしまいます。
でも、覗けばすっとピントが合うのです。

あと、今回は一人称で書きつつ「僕」や「私」を使わずに書いてきました。これは自分への課題で。それが達成したから何になるとかはないけれど。

2011年3月15日火曜日

A ROC ON A PAVEMENT

道の上の石のフリをした星を辿って歩いたら、図書館に着く。
この図書館の蔵書は、銀河一の量だけれども、本を開くと文字が流星となって散ってしまうので、読むことはできない。
そうして飛んで行った流星たちはどこかの道に落っこちて、また誰かを図書館に導く。

2011年3月11日金曜日

どうして酔よりさめたか?

しこたま寄って千鳥足で歩いていたら、お月さまに囲まれた。
お月さまが四人もいる。こりゃ大変だ。見上げれば月も四つ。
「あーあ、こんなに酔って」
嘆くお月さまたちに担がれて、エッサホイサと家まで運ばれた。
「シャワーでも浴びろ」
お月さまたちに服を脱がされて浴室に入る。
蛇口をひねるとシャワーから一斉に星屑が飛び出してきた。
星屑を頭から浴びると、すぅと酔いが醒めた。

2011年3月7日月曜日

月の客人

「ごめんください」
深夜に紳士がやってきた。近頃は不意の訪問者が多い。
「新しいお月さまはこちらですか」
「え、いや、あの……そのように言う人もいるようですが」
「お月さまに貴方が次期『月の人』だと伺いまして」
紳士は「月の客人」だと名乗った。
「月の客人」は、しばしば「月の人」を訪問することになっているそうだ。
星入りココアを二人で飲み、月について語り合った。

「『月の客人』は、新しい人と交代しないのですか?」
ふとそんなことを尋ねると、客人は答えた。
「『月の人』のような交代はありません。貴方は私にとって三十二人目の『月の人』ですよ」
次回の来訪の時には、一人目の「月の人」の思い出話を聞かせてもらうことを約束した。

��月5日『超短編の世界3』出版記念パーティに行ってまいりました。
会場は、噂だけは聞きまくっていた高円寺の「みじんこ洞」です。
お食事は家庭料理。美味しくいただきました。たくさん食べました。また行きたいな。
小さい店内という言い訳で、毎度のことですが隅っこに居座ってしまいました。
ごめんなさいごめんなさい。

もっと居たかったところを後ろ髪引かれつつ、みじんこ洞を後にする。
……しっかり終電でありました。

++++
タカスギさん、がくしさん、たなかさんのお話を聞いて、『超短編の世界』シリーズがようやっとこのような形になってよかったなあ、ここに参加できて嬉しいなあと、少ししんみりしました。
がくしたんの発掘力、たなかさんのバッチリな校正、タカスギ氏の想い、美柑さんのブックデザイン、どれがなくても『超短編の世界3』はなかったのだな、と。
   「愛を」

2011年3月2日水曜日

お転婆雛様

この雛人形は、買い求めたものではない。お雛様が欲しい欲しいと騒いでいた私に両親は「お雛様は買うものじゃない」ときっぱりと言った。

両親の言う通り、四歳の桃の節句の数日前に、お雛様御一行は、しずしずと歩いてやってきた。
私は口をあんぐり開けてただただ見下ろしていたが、母は驚きもせずに、「ほら、よかったこと。やっとあなたのお雛様がいらしゃったのよ」と手際よく雛壇をしつらえたのだった。

そんな雛人形なのに、大人になってからは忙しさや家の狭さを言い訳に、長いこと出していなかった。
うしろめたい気持ちで人形や道具を取り出す。
牛車に泥が付いているところを見ると、退屈していたわけではなさそうで、少し安心した。