2010年8月31日火曜日

無題

闇化学な靄に関する注意報が発令された。鰓呼吸推奨。

お月さまとケンカした話

「あ、こないだはタバコをありがとうございました。美味しくて、つい灰まで食べちゃいました」
月から出てくる人にばったり出会った。
「え、灰を食べたって。なんてことをしたんだ!」
お月さまは、さっと表情を強ばらせた。
(彼が本来の意味で「お月さま」かどうかはわからないが便宜上そう呼ぶことにする。ちなみに、「お月さま」とか「お月さん」とか呼びかけると、彼は普通に返事をするのだ。)
「食べちゃいけなかったんですか?」
「タバコの灰を食べる奴がどこにいる?」
お月さまに胸ぐらを掴まれる。
「食べるなって言ってくれればよかったのに」
「タバコの灰を食べる奴がどこにいる?」
お月さまに突き飛ばされる。
「だって美味しかったんですよ。甘くって」
「タバコの灰を食べる奴がどこにいる?」
お月さまはポケット灰皿を取り出して、灰をつまんで口に放り込む。

2010年8月29日日曜日

月とシガレット

「歩きタバコはいけないよ」と掴んだ男の腕が、存外に軽くて、パッと力を弛める。顔を見れば、ハテどこかで見たことがあるような気がするが思い出せない。
男は「申し訳ない」と謝り、そのタバコを一本くれた。
タバコは喫まないと断ったが、まぁまぁと押し切られる。
家に帰り、月を眺めながら、そのタバコに火を着けると、桃のような甘い煙が立った。
しばらくすると、月の蓋が開いて、人が入って行くのが見えた。紛れもなくタバコをくれた人である。
皿に落ちた灰は、砂糖のように甘かったので、全部舐めた。

2010年8月27日金曜日

無題

数十年の時を経て、書物が呼吸を始める。長い間じっと堪えていた本の吐息を、今、吸った。

2010年8月26日木曜日

ある夜倉庫のかげで聞いた話

またしても、巨大な金平糖が落っこちているのを見つけた。もう使われていない古い倉庫の敷地内、伸びきった雑草の隙間から、ぺかぺかとやたらに煌めいている。
あれも星なのであろう。家の机にいる奴を拾ってから、どうも星づいているようだ。
フェンスを乗り越え、近付いていくと、なにやら声が聞こえてきた。
「これじゃミイラ取りがミイラになっちまう」
「ああ、もう駄目だ。緊急自体発生。行方不明星救出作戦、失敗」
手のひら載せた星は、そりゃもう明るくて、街灯が怖じ気付くほど明るくて。

五千五秒を書き始めてから、拍手が増えました。
ご愛読感謝キャンペーン……は思いつきませんので、がんばって書きます。

過去の「×千×秒物語」は右のカテゴリーからどうぞ。
人気があったのは、三千三秒かなー。少年と月の話。
自分では、四千四秒に思い入れがあります。少女と月の話。

そういえば、今回はまだあんまりお月さん出てないやね。星ばっかり(笑)。

2010年8月24日火曜日

ハーモニカを盗まれた話

ハーモニカをポケットに入れている理由は、明解だ。「吹きたくなったらいつでも吹けるように」
例えば燕尾服でもハーモニカをポケットに入れるだろう。もっとも燕尾服にハーモニカが入るポケットがあるのかどうかは、知らないが。
とにかくツバメのヒナが可愛かったから、その気持ちをハーモニカに乗せたかった。ところがポケットにハーモニカがない。
慌てて家に帰ってそこらじゅうを探してもない。
机の上で、金平糖みたいな星の奴がニヤニヤと光るので、あぁ昨日、流星とぶつかった時に盗まれたのだなと、合点した。

2010年8月20日金曜日

無題

黄色いスニーカーがぴょこたんぴょこたん踊るので足が痛い。

2010年8月19日木曜日

流星と格闘した話

あの巨大な金平糖(星らしいのだが、未だ確証は得ていない)を拾ってからというもの、流星とやらによく出会うようになった。彼らは夜空を瞬く間に駆け抜けるが、地上でも同じだ。
机に向かって手紙を書いているときや、道を歩いているときや、恋人とキスをしようとしているときにまで、頬や腕を掠めていく。おまけに鋭利な刃物でスッと切ったような傷がつくのだ。
捕まえてやろうと待ち構えても、いつ飛んでくるかわからない。ア痛ッと思った時には去った後。
ところが今しがた、蚊が一匹脛にとまっているのを叩き潰したところに、ちょうど流星がそこを通り過ぎたらしいのだ。
手の中で、白く光る金平糖のような物体が暴れている。先に拾ったものより少し小さい。潰れた蚊がへばりついて大変不愉快そうだ。
手の中にあるというのに、飛び続けようとするものだから、振り回されている。力一杯握り締め、腕を抱え込んでもまだ暴れる。
電信柱にぶつかりながら、もう隣町まで飛ばされた。

書きやすいタイトルと書きにくいタイトルが、決まってきます。
この少し後、英語のタイトルが三回来るのだけど、そこがまず山場だ。

2010年8月18日水曜日

投石事件

河原で拾った石ころがない。代わりに巨大な金平糖のような星が、眩しいくらいに輝いていた。
「おまえが石ころを追い出したのだな」
そういうと、星は七色に光った。まったくけしからん星である。
石ころは窓から放り投げてやったと星が言うので(口は利かないが、そんな気配がしたのだ)外に出てみれば、河原で拾った石ころとそっくりな巨石がゴロゴロと転がっていて、車が立ち往生していた。

2010年8月17日火曜日

星をひろった話

巨大な金平糖をひろったのだ。ところが舐めてみてもちっとも甘くない。金平糖ではないようだ。
がっかりしながら、すれ違う人に一々「これは何ですかね?」と尋ねれば、一様に「星ではないですかね?」と答える。
誰に訊いてもそう答えが返ってくるのだから、星なのかもしれない。星だという気がしてきた。
家に持って帰って机に置いたら、先に拾った河原の石ころを苛めるので、よくよく叱り付けておいた。

2010年8月15日日曜日

月から出た人

「月には蓋が付いていたか?」
今度、宇宙飛行士に会ったら訊いてみようと思いながら、一部始終をぼんやり眺めていた。
生憎、宇宙飛行士の知り合いは居ないのだが。

数ヶ月迷っていたのだけど、原点に返る意味で。「五千五秒物語」開始します。まだどんなものになるかわからないけれど「四千四秒」ほどはっきりしたキャラクターものにはならないと思う。たぶん。

私は稲垣足穂ならびに『一千一秒物語』に心酔しているわけではない。よしんば、そうだとしたら、こんなことはしない。
模倣や二次創作をしたいわけでもない。そう見えることはあるかもしれないが。

『一千一秒物語』は「気付き」だった。
それまで短い話といえばきちんと構築されたショートショートしか知らず、そのようなものを自分で書くことはできないと思っていた。
一千一秒を読んで、こんなに短くてこんなに変な話を書いてもよいんだ、と容された気がした。その場で「こういう話をぽつぽつ書きながら年を取ろう」と思った。日記のように書いていけば、60代で10000作になる、と。

2010年8月11日水曜日

無題

大音響の虫の声が、津波のように迫りくる。逃げ場がない。

2010年8月10日火曜日

魂消る通り

魂消る通り商店街の入口は、鳥居のような形をしている。
鳥居の向こうに肉屋とか果物屋とか洋品店とか文具店が並んでいる。
たくさんの人たちがその鳥居を潜って商店街に入っていくけれど、ぼくはまだ魂消る通り商店街には一度も行ったことがない。
だってさ、商店街に向かう人の姿は、鳥居を潜った途端に見えなくなっちゃうんだもの。
ぼくは魂消る通り商店街の鳥居の前を歩くたび、実際、たまげてしまうんだ。

2010年8月8日日曜日

食われた記憶

博学なM氏は、重い事典を抱えて歩き続ける。
道行く人に、ものを尋ねられることが多いM氏だが、事典を開くことはない。全て記憶しているからだ。
ところが先日、うっかりヤギに事典を幾頁か食べられてから、調子がおかしい。
破れた頁にあった事項を、すっかり忘れてしまったのだ。
悪い事に、その頁はMのページで、M氏の先祖についての項があったものだから、M氏は自分の名前も忘れたままに、歩き続けている。

共鳴

打ち上げ花火の音につられてじりじりと蝉が騒ぐ。
負けじと「たまやー」と叫んでみたら、赤子が泣いた。
赤子がいよいよ大声でなくので、犬が遠吠える。
そこに、だまらっしゃいと言わんばかりの大花火が一発。
腹にズドンと響いたと思ったら、闇の中にいた。
もう何も聞こえない。