2010年6月29日火曜日

意馬心猿

馬耳東風なベーシングのおっちゃんは、
ある日、全力疾走する愛馬に跨ったまま、帰ってこなかった。

There was an Old Person of Basing,
Whose presence of mind was amazing;
He purchased a steed,
Which he rode at full speed,
And escaped from the people of Basing.

2010年6月27日日曜日

ビー玉

陸橋に向けてかざしたビー玉に映る電車の速度は、思ったよりゆっくりだった。
キラキラと曲面を走る電車は、僕の行きたいところに連れて行ってくれるような気がするのだけれど、ビー玉の中に入る方法が、わからない。

2010年6月26日土曜日

無題

For No One のポールの歌声の触り心地は、ライナスの毛布に似ている。どちらも触ったことはない。

2010年6月22日火曜日

むかしばなしの落書き(浦島太郎)

「我こそが浦島太郎に助けられた亀の直系子孫である」と名乗る海亀が後を絶たない。

2010年6月20日日曜日

むかしばなしの落書き(かぐや姫)

月に掛かった雲を食べたら、かぐや姫に酷く怒られた。
着替えの最中だったようだ。

友人宅でミニ同窓会。中学時代の友人が7人集まった。
途切れず交流があったり、疎遠になっていた期間が長かったり……。それぞれの縁が繋がって、こうして集まれたわけだ。

不義理することも多いけれど、逢えばすぐにお喋りが始まる。子供時代の友人の有難いところですなぁ。

その帰り道に雲空の月を見て、書いた話(苦笑)。

2010年6月17日木曜日

染まる

青い紫陽花の中に、ぽつんと白い紫陽花を見つけた。あら、染まり損なったのかしら、と思ったら「いいえ、白く染まったのです」と声がした。振り返ると、まばゆい白髪の少女がいる。

ご近所紫陽花脳内MAP増殖中。

2010年6月16日水曜日

無題

郵便ポスト氏に「同じところに突っ立ていたら退屈だろう? 散歩はどうかい?」と誘ったが、断られる。

2010年6月15日火曜日

六月十五日夏の後で

ここ最近、ウサギからチョキチョキと毛を切り取って貰っていたから、とうとうハゲが全身に拡がってしまった。流石に申し訳なくて謝ったら「気にするな」と言う。
「羊みたいにまた伸びるかね?」と尋ねたら、「羊に訊いてみる」と出て行った。
ところが、三十分もしないうちに帰ってきた。
「やっぱり、夏が終わってから、訊きに行く」
私もそれでいいと思う。

2010年6月14日月曜日

雨の日の散歩

まず傘が大切だ。赤橙黄緑青藍紫。七色の傘から今日の色を選ばなければいけない。
もちろん、揃いの長靴も。
今日は赤い傘と赤い長靴。暗い雨の中でも眩しい、ぴかぴかに明るい赤だ。
唄いながら歩くと、おかしな人だと思われるので、それはしない。

濡れた花は美しい。
水溜りは時々落ちて出られなくなるので、気を付ける。
道でミミズが寝ていたら、声を掛ける。
雨の日の散歩は実に忙しい。

書きながら、おかあさんといっしょの「ジグザグおさんぽ」と「ボログツブギ」が脳内で流れている。

「その日、目が覚めてからメロンパンを食べるまでの出来事」への拍手コメントありがとうございました。

無題

ミミズのオッサンと大勢遭う。夏が近い。

2010年6月13日日曜日

清潔な私

自分と母親以外の全ての生き物は、清潔だと思っていた。
男の子とかたんぽぽとかキリンになれたら、どんなに清潔だろう。
願いは突然叶うものだ。或る朝、目覚めると私は植物園の向日葵になっていた。ナントカっていう貴重な種類の向日葵であるところの私は、栄養と必要な細菌やプランクトンを計算し、配合された土に植えられ、清浄な水を決まった時間に決まった量を与えられ、分刻みで管理された温度の中、枯れずに生きていく。
太陽の方向もわからず、毎日時計だけを眺めている。
不潔な存在だったあの頃よりは、幸せ。自分が汚いと思わないのは、幸せ。何も楽しくはないけれど。
まだ午後四時二十八分だ。

名取川

 名取川の辺に棲む翁は、昔話や民話や、その他たくさんの不思議な話の語り部として有名である。
 翁が有名なのは、その膨大な話の記憶量だけではない。なかなか人に語らぬことでも有名なのだ。大学の研究者、怪談やオカルト好きの者、テレビや雑誌の取材などで翁の元を訪れる者は多い。だが、実際に話を聞いて帰ってくる人間は、ごく僅かだった。
 翁は堅物でも偏屈でもない、気さくな老人である。相手が気に食わないからと門前払いをするわけではない。それは私自身、翁に逢ったのだから、断言できる。

 雑誌の取材を翁に申し入れた私は、翁の指定した日時に訪ねて行った。
 茶と菓子を持って現れた翁は、真っ先に私の名を訊いた。もちろん、取材を申し込んだ際にこちらの氏名や取材目的などは話をしてある。翁の表情には、なぜか悪戯小僧のような気色があった。
「改めまして、東京のX出版から参りま……」
 私は絶句した。自分の名前がわからないのである。嫌な汗が全身から噴き出した。ポケットを探り、名刺入れを取り出す。
 名刺は、名前の部分だけ墨を流したように滲んでいた。翁は私の名刺を覗き込んで、けけけけ、と笑った。
 真顔に戻った翁に、狂言の「名取川」を知っているか? と訊かれても、すっかり動転した私には、何のことやらわからない。川に名前を取られたのだと、翁は説明した。
 もう一度、川を渡れば、東京に帰るころには、名前も思い出すだろう。その代わり、ここでの出来事はほとんど覚えていないはずだからと、励まされ送り出された。
 そう、私はその日の出来事をよく覚えている。そして、未だに自分の氏名を思い出せないままだ。家族や友人に何度聞いても、覚えることが出来ない。

どっちかというと、「みちのく怪談」の没。
本文中にもあるように狂言の「名取川」を下敷きにしたようなような。

きのうアップした「阿鼻叫喚」は6月10日へ移動。

2010年6月10日木曜日

阿鼻叫喚

 叫び声に驚いて様子を見に来た妻が、どさりと倒れた。私は叫びながら読書中で、妻を抱き起こすことができない。よしんば、本を手放しても、とてもこの手で妻に触れる気など起こらないだろう。

 古書店で一目惚れした『てのひら幽霊』なる本は、筆者も版元も聞いたことのない名であったが、趣向を凝らした美しい造本で、これぞ古書探求の醍醐味と、迷うことなく購入した。帰りがけ、店主が「お気をつけて」と小声で呟いたのは、気のせいではなかったようだ。

 目を通した端から、文字が滲み、血となり、頁を濡らす。今すぐにでも目を閉じて本を放り出したいのに、それができない。
 題名の通り、古今東西の短い幽霊話が次々と語られていく。どれもこれも凄惨な話だ。一話読むごとに、血が染み込んだ本は重くなり、主人公たる幽霊が出現する。幽霊が押し合い圧し合いしながら、好き放題に大声で恨み事を言う。私の叫び声と、幽霊共の「怨めしや」が狭い部屋に充満する。
 腥い空気が濃くなった。血の滴となった文字は、紙面から溢れ出し、私のてのひらから手首まですっかり血みどろにした。
 血に塗れた私の手指は、それでもなお間違いなく頁を繰る。夢中になって幽霊話を読み漁る。叫び声を上げながら。
 ついに最後の一話となった。この一話を読み終えれば、解放されるはずだ。
 早く早く。読み終えたら、血に穢れたこの手を洗い、妻を介抱するのだ。
 頁の上にゆらりと立ち上った最後の幽霊が、手招きする。息を吸う間もなく上げ続けていた叫び声が、退く。

bk1怪談大賞用習作二つ目。
昨日アップしたのは、6月3日に移動しました。
何月何日に書いたか含めて記録するのがこのブログの役割。

2010年6月8日火曜日

六月八日 ゾウのおならについての考察

ゾウは、「横になるときについついおならをしてしまう」と言っていた。
どうしてなのか、ゾウ自身よくわからないらしい。私も考えてみたが、ゾウではないのでわからない。
ならば真似をしてみようと思ったけれど、ベッドに潜りながら都合よく放屁するなんて器用なことはできなかった。
ところが、ついさっき思い出したのだ、ウサギが「どっこらしょ」と言う時、十回に七回は同時に「ブゥ!」と音がすることを。
これでゾウのおならも「どっこらしょ」であるという仮説ができた。
ちなみにゾウのおならは、「ブロロロロロ」だ。

2010年6月3日木曜日

鏡越しの君

 鏡に向かう妻と会話するのが好きだ。髪を梳かし、肌を整え、化粧をする妻をぼんやりと眺めながら、とりとめのない話をするのは、恋人時代からの変わらぬ習慣である。
 時折、鏡の中の妻と目が合う。左右が入れ替わってほんの少し現実と違う妻の顔に、微笑まれたり、睨まれたりする。
 どういうわけか、鏡の中の妻は、違う方向を見て話していることもある。私とは目が合わないが、鏡越しに誰かを見て、「そうよね」などと言って微笑みかける。さりげなく見廻してみるが、もちろん誰も居ない。
 おまけに、私に対するよりずっと優しく、そして少し寂しそうな眼差しをするものだから、心中穏やかではない。私は嫉妬しているらしい。
 困ったことに、近頃の妻は、私を通り越した天井のあたりに話しかけることが多くなった。私はますます嫉妬する。妻は一体誰に語りかけているのだ。
 妻よりも早く起き出して、鏡台の前に座った。鏡に掛けられた布を捲る。私がかつて贈ったスカーフで作ったものだ。
 鏡を前に、私は己と対峙することができなかった。映っていないのだ。
 その代わり、天井のあたりに、苦笑いをしてふわりふわりと浮いている私が映っていた。
 そうか、妻は、ちゃんと私と話してくれていたのだ。
 そう合点したら、急速に眠たくなってきた。
 妻に寄り添って、もう一度眠ることにしよう。
 恐らく、もう二度と目覚めることはない。

ビーケーワン怪談大賞に出すための習作その1。
なかなか調子が出なくて、結局全部で六つも書いてしまったのことよ。