2010年2月23日火曜日

寝息

恋人が時計の中で眠ることを知ったのは、いつだっただろうか。
「狭くない?」
と、つい何度も訊いてしまう。
彼が眠るのは、古くて、壊れた螺子式の懐中時計。
どうやって入るのかは、見せてくれない。
「ちょっと目を瞑っていて」
顔を背けて、ぎゅっと目を瞑る。
まもなく、秒針が動き出す音が聞こえる。
チクタクが一秒より少し長いのは、彼の寝息だから。
私は、時計に長くて細い鎖を付けた。首に掛け、時計を胸に抱き、眠る。
深く深く、眠る。