2010年1月24日日曜日

鼓動

深い海の底から発見された石像は老人の姿をしていたが、その皺の多さに似合わず、白く滑らかな肌をしていた。
発掘に携わった人々は、老人を丁重に陸地へ案内し、身体を清めた。
老人の身体を磨いていた者の一人が、呟いた。
「鼓動が聞こえる」
皆が老人の左胸に耳を寄せる。確かに、鼓動が聞こえるのだった。
時限爆弾かもしれない、なぜなら老人は数千年の眠りから覚めたにしては美しすぎる。そう言う者もいたが、多くの人々は冷静だった。老人を精密に検査することにした。

X線やCT検査の結果、老人の胸には、時計が埋められていることが判った。
長い年月の間に時計が動き続けることができた理由は謎のままだ。老人の胸に手を入れて、時計の螺子を巻くことなど誰もできない。

謎は謎のまま、老人は美術館で暮らすこととなった。老人の小さな鼓動が響くよう、反響のよい部屋が造られた。海底を思わせる青い床の部屋だ。