2009年12月30日水曜日

十二月三十日浮き遊ぶ

色とりどりの海月がむやみやたらと浮遊している。
時々、海月同士が衝突しているけれど、痛そうでもないし迷惑そうでもない。たぶん、誰のせいでもないのだ。
忘れていたけれど、明日は一年ぶりの大晦日だ。

お陰様で2009年は大変によい年でした。
年々、月日が経つのが加速しておるのがチト困りものですが(笑)、来年もぼちぼちちまちまとやっていこうと思いますので、よろしくお願いします。
まずは「時計」というテーマで連作を始めたいと企み中。(←言っておかんと、忘れそう)

2009年12月28日月曜日

猫と温度計

タマは、ガリレオ温度計の玉と遊びたいらしい。
最近、ようやくあの玉には触れないと気がついたようで、引っ掻く代わりに擦り寄るようになった。
日向に温度計を置いてやると、擦り寄ってしばらく頬擦りした後、温度計を抱えるように丸まり、寝てしまう。
日向とタマの体温で、ガリレオ温度計は、火照りっぱなしだ。

2009年12月26日土曜日

謎ワイン

 酒屋を営むネゴチオ氏は、或る朝、見慣れぬ薄汚い木箱が店先に置かれているのを発見した。
 木箱の中には、ワインが一ダース。取り出してみるが、どこにもラベルは貼られていない。
 まさか毒入りということもなかろうと、ネゴチオ氏は一本開けると、香りを確かめ口へ含み、直後にそのワインを店で売り出すことに決めた。値段をいくらにしようかと悩んだ末、店で一番安価なワインより更に少し安くした。
 ワインは「謎ワイン」と呼ばれ評判となり、大変によく売れた。売り切れる頃合いを見計らったように、店先に例の木箱が置かれるので、品薄になることもなかった。
 しかし、善良な商売人であるネゴチオ氏には、罪悪感があった。素性の知れないワインを店に出すことも、売上のすべてを己の懐に入れることも。
 ネゴチオ氏は、徹夜で店の前に立ち、木箱を運んでくる人を待つことにする。せめてお礼を言わなければ、気が済まない。
 しかし、ここで話は終わる。この話の目撃者であるネズミがネズミ獲りに掛かってしまったからだ。謎ワインはチーズによく合うだろうと思ったのが運の尽き。ネゴチオ氏がワインの謎を解くのを見届けるまで、我慢することができなかったのである。

(494字)
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500文字の心臓 第91回タイトル競作投稿作
○1 △1 ×1

ネゴチオってのは、イタリア語の「negozio」(店の意)から。
どっか大昔の、どっか架空の、いかがわしい町の話、という脳内設定。

2009年12月24日木曜日

ピンチ!

白い髭の老人は、まだ気がついていない。
どっこらしょと背負ったその袋、大きな穴が開いているよ!

2009年12月22日火曜日

ロケット男爵

七つの宇宙を股に掛けて飛び回ったロケットは、ロケットとして初めて爵位を賜った。
まもなくスペースデブリとなるロケット男爵が、社交界にデビューする日は近い。
年頃のメテオロイドたちが、キラキラとロケット男爵に熱い眼差しを送る。
だれがロケット男爵のダンスの相手をするのかしら。

発売中の雑誌、「散歩の達人」
なんと、赤井都さんの『第二の手紙』の写真が表紙です。
豆本がちゃぽんの話題も出てます。

2009年12月19日土曜日

楽園のアンテナ

猫の尻尾を丹念に探ると、小さな硬いものに触れる。
ちょっとゴメンヨ、と言ってやわらかな毛を掻き分け、ポケットに忍ばせたナイフを取り出して、チョンチョンのスッと切ると、小さな透明な棒が出てくる。血は出ない。
陽の光に当てると、虹よりも派手な虹色が広がった。
僕はそれを「楽園のアンテナ」と呼んだ。
楽園のアンテナの標本は、やっと9本集まった。
これを持って外を歩けば、温かいお昼寝に適した場所とか、満月がよく見える場所とか、おいしい魚屋の場所とか、怠け者のネズミが棲んでいる家とか、ミルクをくれるおばあさんちとか、なんでもよくわかる。
アンテナを失った猫たちの心配はいらない。あいつらにとって楽園のアンテナはオマケみたいなもので、楽園のことはちゃんとヒゲが覚えているから。
今日は、ノラ猫のサスケのアンテナを首にぶら下げて、散歩に出かけよう。

2009年12月16日水曜日

微亜熱帯

葉だけ椰子の木になった松の木の盆栽を眺めながら、嘴だけターコイズブルーになった雀に米粒をやる。

2009年12月14日月曜日

故郷へ

泳ぎは苦手だから、海には行きたくないんだ。
なんて言っていたのは、嘘だったのね。
と、金魚鉢を眺めながら呟く。
恋人は、私の部屋の金魚鉢で泳ぐのが、いたく気に入ってしまった。
「こっちへおいでよ。気持ちがいいよ」
そんなことを言われても、私の躰は金魚サイズにはならない。
私は、海で泳ぎたいの。

金魚鉢を抱えて、電車に乗った。故郷を目指して。
脚に残った鱗が疼く。

文フリが終わってちょっと気が抜けてます(笑)。
若干滞ってます。もっとテキパキ動けるとよいのだが。

へんぐえの架空ストア委託準備は、商品ページ作成まで終了。
あとは、モノを架空ストアに届け、公開するだけ。なんだけども、本を個包装するための袋の手持ちがないのでストップ中。たぶん火曜日に買いに行きます。
そして、金曜日までのどこかで架空ストアに行きたい(願望)。気力がなければ、送る。ちゃんとこの通り動けば、週末までに発売開始できると思う。
関係各位、遅くなって申し訳ありませぬ、しばしお待ちを。

金曜日に、心臓の選評書きたい。

早く週末にならないかなー……(まだ月曜だ)

2009年12月12日土曜日

還れない

石灰水の中で溺れて瀕死の様相を呈している小さな葉がいる。
青すぎる水の中で、少しずつ、身体に澱のようなものが纏わりつき、身動きが取れなくなる。
樹木を茂らせる一構成員だった葉は、葉脈活き活きと力強く、日差しを一杯に浴びて、空を眺め、風にそよぎながら暮らしていた。
樹木を離れなければならなくなったときも、別段悲しくはなかった、苦しくもなかった。風に飛ばされ、しばらく旅をした後、どこかで土に還るはずだった。
けれど、思いがけないところに葉は迷い込む。どうしてこんなところにやってきたのだ、鍾乳洞。
そこの池は、今まで浴びたどんな雨とも、異なっていた。重く、まとわりつく。
葉は、土に還ることはもうできない。石灰の中に囚われた葉は、何億年も

2009年12月10日木曜日

うわの空

夢と現つの隙間に落っこちてしまった。
現つはぐいぐいと押し寄せてくるし、夢はふにふにと頬っぺたを触ってくる。
無理やり見上げると、細い空が見える。一筋の青は綺麗だなと思う。
身動きが取れないけれど、まぁそれでもいいや。

2009年12月5日土曜日

地球をみじん切り

ラジオから流れるDJの声に雑音が混ざる。DJは、まもなく僕のリクエストしたナンバーを流すと言っているのだ。数日前に葉書に書いた僕のコメントが、途切れ途切れに読まれている。
チューニングのつまみをそっと、ほんの少しだけ左右に動かしてみる。曲が始まるまでに、周波数よ、合え。

ポンっと音がして、無音になった。
とうとう壊れちゃった、僕のおんぼろラジオ。何もこんな時に壊れなくてもいいのに。
「あーあ」と大きな声で、悪態をついた。
すると、「壊れたんじゃないさ」と、ラジオとは思えぬほどの明瞭な声で、DJが言った。
「リクエスト、ありがとう、ラジオネーム「地球をみじん切り」。キミが地球をみじん切りにしたから、たった今から宇宙よりお届けしている」
窓の外を見ると、闇でもなく光でもなく、ただDJの声で充たされていた。

2009年12月2日水曜日

十二月二日連綿と続くもの

もうすぐ百歳になるという、少女の曾祖父の長命を敬いつつ、二人の亡き祖父と幾らも年が変わらないことに思いが至る。
眠り薬を飲むことを、許してください、今夜は。

2009年12月1日火曜日

鳴らない

ここに、クラリネットが二台ある。
きみは、昔、ブラスバンドをやっていたから、クラリネットをドレミファソくらいまでなら、吹くことができるはずだ。
さあ、吹いてごらん。
おや、鳴らないって? そりゃあ、そうさ。
ひとつはマウスピースにキツツキが穴を開けたから音が出ない。
もうひとつは、山の枯葉に14年間埋もれて腐ってしまったから音が出ない。
だけれど、キツツキのほうは「スー」と鳴らないし、腐っちまったほうは「フー」と鳴らないだろう。
どっちが好きかい?
どっちも嫌い? 鳴らない楽器は楽器じゃないって?
さぁて、それはどうかな。同じ鳴らないクラリネットでも、腐ったやつがよいと思うよ。悠久の時の流れを感じるからね。
大袈裟だって? 私はいつだって大袈裟だ。