2009年11月29日日曜日

瓢箪堂のお題倉庫

来年咲く花
偽物の世界
不響輪音
空中花
踏切にて
間違い街角
ゆらりゆらら
沈殿都市
オレンジ色の人
胡桃割り人形の錯乱
最後の楽団
暗夜回路
読書の残骸
暁の真ん中で
飛行船群の襲来
増殖する愛
海底の寝心地
可憐な罠
音符の行進


果物橋


クラシカルクジラ

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お好きにお使い下さい。
報告等は必要ありません。
思いついたら加えるかもしれません。



2009年11月26日木曜日

ルート3のおしまい

三叉路の入り口に恋人が立っている。

一番目のルートは、走っていくよ。
二番目のルートは、自転車だ。
三番目のルートは歩いてく。
さぁ、どれにする? って突然言われても困ってしまう。
行き先はどこ? と訊くとにっこり笑って「僕にもわからないんだ」って答えが返ってきたから、また困る。
「どれにする?」
もう一度訊かれたから「ルート3」と応えた。
なんだかよくわからないけど、ゆっくり行こうよ。と、呟いたのが恋人に聞こえたかどうかは、わからない。

手を繋いで、落ち葉を踏みしめて歩く。私も恋人も、何も言わない。時々、風が吹いて、枯れ葉が降る。新しい落ち葉の上を歩くと、音が大きくなる。
この道に、おしまいなんていらない。

2009年11月25日水曜日

夢 第十二夜

誰かが私の顔を捻っている。頬骨に力が掛かり、下顎が突き上げられる。額が押されて、鼻が潰れる。
顔を捻られているから声が出せない。やめてくれということはできない。
「これは治療なのです。あなたの苦痛が和らぎます」
人の顔を捻っている手の持ち主とは思えぬほど穏やかな声が、頭の上から降り注ぐ。
「治療によって、容姿も整うでしょう」
そう言われて、もうずっと長いこと、鏡を見ていないことに気がつく。

2009年11月23日月曜日

良いクラッカー

クリスマスが近いから、クラッカーを用意しなければならない。
明かりを暗くして、クリスマスツリーの赤や青の電飾を点滅させる。
そして、ケーキを前にクラッカーをパンと鳴らして、君の耳元で「メリークリスマス」と囁くのだ。

その時のクラッカーは、まず音がよくなければならない。不発なんてもってのほか。
それから、煙は少なめに。これは大切なことだ。
最後に、クラッカーの中身がサンタクロースであること。
昔、サンタクロース入りのクラッカーの話を絵本で読んだのだけれど、どこを探してもサンタクロース入りのクラッカーが見当たらない。これが手に入らなければ、クリスマスパーティーは今年もお預けだ。

2009年11月20日金曜日

十一月二十日峠道で魚に会う

峠道で魚が迷子になっていた。
紅葉の中、途方に暮れる魚をどうして助けてやればよかったのだろう。
どんなにピチピチ跳ねても、ここじゃ潮風すら浴びることはできない。

2009年11月17日火曜日

エルエル

エルとエルは背中合わせに座っている。
ぴたりと背中をくっつけて、脚を投げ出し、夜中の野原に座っている。
二人は裸で、今は冬。互いの背中の温もりだけを頼りにゆっくりと白い息を吐いている。
二人は星を見ているのだ。七つの一等星の瞬きの隙間から、時折、流星が見える。エルもエルも声は決して出さないけれど、流れ星を見た瞬間にだけ、白い息がほぉっと大きくなる。
エルはエルの願い事を知らない。
エルもエルの願い事を知らない。
それでも夜明けまで背中だけを頼りに温め合う。
エルが凍え死んでしまわぬよう、それだけを祈りながら。

2009年11月16日月曜日

明確なアイマイ

午前三時に目が覚める。寝返りを打つと、目の前に眠る男の顔があった。
睫毛
額にうっすらと、にきびの跡
規則正しい寝息

左手でそっと顔を撫でる。いとおしさが溢れる。
私は、この人のことが、とても好きなのだ。
再び目を閉じた。


朝、代わり映えのない目覚めだ。
窮屈なベッドの中で起き上がるのを渋っていると、なぜか毛布から他人の匂いがした。心地よい男の匂い。よく知っている男に違いないと思うのに、まったく心当たりがない。
けれど、確かに言えるのは、私はきっとその男がとても好きなのだ。

2009年11月13日金曜日

禁止する看板

「……べからず」
看板はトタン屋根に引っ掛かっている。あちこち錆びていて、文字は最後の「べからず」しか判読できない。
風が吹く。嵐が近づいているのだ。
看板はトタン屋根の上で不恰好な宙返りを三回してから、電線に一瞬触れたあと、犬小屋の前に落ちた。また角がへこむ。
黒の犬がフンフンと検分してから、看板に小便を威勢よく掛ける。
看板は、生暖かい液体が錆びに染み渡るのを感じながら、己がかつて「立ち小便するべからず」ではなかったことを願う。

ビスケット色

ビスケット色した蝋燭を見つけた。
「ねえ、これに火をつけようよ」
電気消してさ。きっと香ばしい時間を過ごせると思うんだ。

けれども、彼女はあっさり却下した。
「どうしても?」
「どうしても」

何故かって訊いても答えてくれないだろう。
きみには秘密が多すぎる。
年齢も、好きな色も、好きな食べ物も、僕は知らない。
そういえば、名前さえ知らない。

「都会のネオンはまぶしすぎるね」
僕は、きみがくれたビスケット色のマフラーを巻いて、出ていくことにした。四十六階から、階段を使って歩いて降りるつもりだ。

たぶんきみは僕を追いかけない。ビスケットがもうすぐ焼けるころだから。
きみがビスケットのこんがり焼け具合に、拘り過ぎなくらい拘っていることだけは、よく知っているから。

2009年11月11日水曜日

七五三の庭

 西日を受け、石庭の白砂が薄色に輝いている。普段は観光客で賑やかな方丈だが、今はとても静かだ。いささか静か過ぎる気がしないでもないが、ゆっくりと石庭に対峙できることを嬉しく思いながら、廊下に腰を下ろす。
 石の上を軽業師のように飛び跳ねている子供がいる。庭に降り立っては、せっかくの箒目が台無しになってしまうではないか。しかし、箒目には足跡はひとつも見つからず、そんな私の疑念を見透かすように、子供は尚いっそう軽々と油土塀と石の上を軽やかに飛び回っている。
 子供は時々ふと見えなくなる。やはり子供は幻かと思うが、またすぐにどこかの石の上に姿を現す。そういえば、方丈の廊下からこの庭の十五の石を全部一度に見渡すことは出来ないという。私から見えない石を承知の上で、飛び回っているらしい。その証拠に、しばらく隠れた後は必ずこちらを見遣り、悪戯っぽい顔で笑って見せるのだ。
 小さな石にも大きな石にもぴたりと着地し、そのたびに石庭を見下ろす子供。それはまさしく大海原を見下ろす目であった。その小さな身体はしなやかで、美しく、厳かだった。
 いよいよ日が暮れて、飛び回る子供の姿が朧に溶けていく。私は方丈の廊下から退く。方丈の中ほどに立ち、見えなかった石を見ると、子供が手を振っている。こちらもぎこちなく手を振り返す。



ノベルなび未投稿作品 龍安寺石庭


明日は美味しい

「たくさん笑った次の日は、雲がぼくの匂いになる。だから、泣いちゃだめだよ。笑っていてね、ちゃんと見ているよ」
そう言って恋人は目を閉じた。

久しぶりに笑った。声出して笑った。
明日が雨になればいい。どしゃぶりになればいい。止まない雨がいい。
傘を差さずに町を歩いて、、きみの匂いに包まれたまま眠りたい。

2009年11月8日日曜日

十一月七日 香り高き日

その髑髏車には車輪がなく、しかし多量の刻んだ茗荷を運んできた。
うまかったので、許す。

快遊展に行きました、という日記。

2009年11月2日月曜日

あかるいね

真っ黒な遮光カーテンをもろともせず、室内に燦燦と陽が降り注ぐ。
「あかるいね」
と彼女はまぶしそうに目を細めた。
一体どういうことだろう。
思い切ってカーテンを開くと、窓の外は、すべての可視光線をこれでもかと凝縮したような明るさなのだった。目が眩んで慌ててカーテンを閉じる。

蛍光灯はいらなくなった。サングラスは見たこともないくらいに黒くなった。
それでも外は明るすぎて、遮光ヘルメットが政府から全国民に支給された。それを被らないととても歩けない。
一番困るのは、いつも二人で行く河原で、彼女にキスできないことだ。

(250字)
+創作家さんに10個のお題+

三里さんのお題は、どこかに甘やかな感じがして、つい恋人を描きたくなる。

私もふと思いついたタイトル案をメモしていて、10個溜まったのだけど、どうしようかな。
逆選王になる見込みはないからなー(笑)