2009年6月1日月曜日

愛の雫

豊かな森の中には湧水がいくつもある。愛し合う神が抱き合い、雫が滴るから泉が湧く。
いつか山歩きの途中で出会ったお婆さんが言っていた。
神様っていっても男と女だろ、永く見つめ合ってたら、火花が散ることもあるだろうにねぇ。お婆さんは悪戯っぽく笑った。

それ以来、ぼくは火打ち石を持って山に入る。湧水を見つけると、カチカチと石を鳴らして手を合わせる。神様たちの代わりに火花を出すのだ。
だってほら、いつまでも存分に愛し合っていてもらわなくちゃ、水が飲めなくなってしまうから、ね。

(232字)

京都フラワーツーリズムのHP、「ノベルなび」に拙作「はかなげな」が公開されました。哲学の道が舞台です。子供の頃に行った京都での思い出を元に書いたものです。
ノベルなびのこと、京都新聞にも記事が出たそうです。