2009年5月21日木曜日

呼吸

海面を突き破り、大きく息を吸う。
あ、またあの子がいる。最近よく見かけるあの子は種族が違うから、ぼくと同じようにこちらを認識しているかどうか、わからない。確かめる術もない。
しばらくあの子を感じていたかったけれど、すぐに海中に消えてしまった。なぜか海中ではあの子を察知することができないから、呼吸の瞬間が偶然合わなければ、見ることはない。
この広い空に誰かと同じタイミングで顔を入れるなんて、そうそうあることじゃない。呼吸の回数は、種族にもよるけれど一日に何十回もあるものではないし、一度の呼吸だって長くは掛からない。ましてやぼくの視界に入る範囲で、となれば、一人の人と遭遇する確率は本当に小さいはずだ。
それなのに、近頃は必ずと言っていいほど、あの子と遭遇する。
ぼくがあの子を想いながら呼吸するせいだろうか。そう思いたいけれど、だからそれが何かの証になるかといえば、何も示してない気がする。
この「偶然」を、誰かぼくに説明してほしい。

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