2009年5月13日水曜日

沈む恋

魔法使いは瓶を持ち海へ向かう。異国に住む恋人に逢いたいと泣き暮れる少女が入った瓶を。
魔法使いは娘に魔法を掛け、小さくなった少女を瓶に入れた。
瓶を波に託す。ゆらゆらと浮き沈みながら沖へ遠ざかる瓶を眺め、魔法使いは嘆息する。瓶は恋人のいる国に流れつくことはできないだろう。
一刻も早く恋人に逢いたいと少女は瓶に入っても泣き止まない。
少女が涙に溺れるか、涙で重くなった瓶が海に沈むか。
どちらが先かは、魔法使いにもわからない。

(208字)