2009年3月22日日曜日

泳ぐ髪

湖に飛び込むと、身体中の毛穴に澄んだ水が染み渡る。
わたしが泳ぐと髪も一本一本泳ぐみたいに水流に乗る。
深く潜る。息は苦しくならない。わたしは小さい時、魚になりたかった。

「素裸のまま泳ぐのは止めろよ」
と不機嫌な様子でケイは言う。昔はケイのほうが泳ぎはうまかったのに、いつのまにかわたしはケイよりも長く深く泳ぐようになっていた。そして、ケイは湖に入らなくなった。けれど、わたしは湖で泳ぐのを止めることはできない。

ケイは今、わたしが脱ぎ散らかした服を守るように、わたしが上がってくるのを待っているだろう。

水が暗くなってきた。日が落ちてきたのだ。
ケイはまた心配そうにしているに違いない。
遅い、と責められると、わたしはうまく謝れない。だってケイが勝手にわたしを待っているんだもの。
でも、ケイが濡れた髪を結なおしてくれるのは、嬉しい。ケイの大きな手が頭を撫で、髪を梳くと、なぜか鼓動が早くなる。だから、湖から出た時にケイがいないのは、嫌だ。

「ケイ」
と水の中から呼び掛けてみる。
少し冷えてきた水が心地よくて、またわたしは少し深く潜る。

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