2009年1月23日金曜日

朝靄の中で

少女が眠っている間、尻尾を切られた黒猫はどうしているのか。夜明けの月は少々意地悪な関心で天から黒猫を観察することにした。

黒猫はそっと少女の腕から抜け出すと、寂れた歓楽街のビルの陰で、年老いた娼婦にミルクを貰っていた。
残飯を漁る鴉を一瞥し広場に出ると、しゃがれ声の老人の唄を少し離れたところから聴いていた。老人は死んだ恋人を求め彷徨う唄を繰り返し繰り返し唄った。

漸く老人が唄うのを止めると、黒猫は立ち上がり白い月を見上げながら、些か大袈裟な欠伸をした。
「やや、お見通しだったね」
月の苦笑いに、黒猫は二度目の大欠伸で応える。