2008年12月19日金曜日

猫を飼えばよかった話

「子猫を貰ってくれませんか」
と十七歳の娘に言われた。紺色のブレザーの制服は随分くたびれている。そのせいだけでなく、どことなく生活臭の漂う、小母さんのような十七だ。
猫はまだ二ヶ月くらいで、肉付きのよい娘の胸に抱かれていた。キジトラの、丸い目をした子猫だった。
「うちでは飼えないよ、アパートなんだ。おまけに、小鳥がいるからね。きっと猫は小鳥を襲ってしまうよ。今はまだ大丈夫だろう。小鳥のほうが早く逃げる。けれど、猫はすぐに大きくなって、小鳥を食べたがるに決まっているんだ。僕は小鳥が猫に食べられるところは見たくない。黄色い小さな羽がバサバサと飛び散るのを、君だって見たくはないだろう?」
十七歳の小母さんみたいな娘は、尤だという顔して「他をあたってみます」と小母さんそのものの声で言うと立ち去った。
アパートに帰って、鳥籠を覗くと、小鳥は一羽も居なかった。籠の中では、鼠がチョロチョロと動き回っているだけだった。僕は頭を抱えた。やっぱり猫を引き取ればよかったのだ、と思った。