2008年5月20日火曜日

屍拾いの呟き

 アトミック・ドロタボー、かつて「泥田坊」と呼ばれたものの亜種だろう、と推測されている生物の屍を、俺たちは防護服を着て回収する。
 数十年前から、強い放射線に汚染された土壌や海が急速に増えている。二十世紀から二十一世紀頃の人間が、知識や技術が不十分なうちから核を利用した影響だ。二十世紀人が厳重に包み地下深く処理したつもりの放射性廃棄物が、今頃になって漏れ出ているらしいのだ。
 以前は良質な米を作っていたこの地域も放射性汚泥地帯となった。そして、泥田坊に似た異形のものが次から次へと溢れ出るようになったのだ。泥から這い出た奴等は、子を生そうとしているのか女を求めて股間のものを奮い立たせながら彷徨うのだが、何故かすぐに事切れてしまう。そこをすかさず回収するのが俺たちの仕事だ。死んだものを放っておくとたちまち腐り、破裂し、多量の放射線が飛び散るからだ。つまり、アトミック・ドロタボーは土壌から排出された放射能の塊でもあるのだ。
 俺もこの仕事を始めてずいぶん長くなった。アトミック・ドロタボーが出なくなり、ここで作られる米が再び食えるようになるのを夢見て、今宵も屍を拾う。

『未来妖怪』投稿作