2008年3月2日日曜日

エスケープの合図を送れ

本当に、合図なんて送れるのだろうか。
深い眠りの中で、僕たちはいつもしっかりと手を繋いで泳いでいる。昼間の僕たちには考えられないけれど、そうしなければ強い流れに飲み込まれてしまうから。

夢というには、あまりに苦しい現実だ。朝起きれば、パジャマも髪もぐしょ濡れで、同級生である彼女もまた同じ状態らしい。

今朝、巨大な生き物が接近するところで目が覚めた。シャチならいい。巨大タコでもまだマシだ。たぶんこの世の生き物じゃない。だってやっぱり、僕とあのコの夢が作り上げたものだから……。

とにかく今夜は確実に襲いかかってくるだろう。
授業中も、彼女の後ろ姿を見ながら、あの生き物から逃れる方法ばかり考えていた。

「引き付けたところで、合図するから」
学校からの帰り道、やっと彼女に話しかけた。彼女の顔色が変わった。
「右手に向かって逃げるんだ。あっちのほうが、たぶん流れが穏やかだ」
「できない、一人じゃ泳げないよ。それに……」
「大丈夫。ちゃんと目が覚めて、明日も退屈な学校にいく。それだけだよ」
大丈夫な保証はない。前に岩にぶつかってケガをした時は、病院でキズを縫った。

僕たちは、初めて手を繋いで歩いた。
よく知っている手。でも、濡れていない。ここは夢でも水中でもないんだな。なのに、不安なのはなぜだろう。
彼女逃がすために、僕は今夜眠るのだ。