2007年6月15日金曜日

間に合わない

 人間、いつ死を迎えるかわからない。若かろうが、病気がなかろうが、関係ない。明日の事実は誰にもわからないが、死は誰にでも起こる、覆せない未来の事実だ。
 そう俺は子供の頃から考えてきた。皆平等に死ぬとわかってはいるが怖いものは怖い。怖さの最大の要因は「自我が消失すること」であると考えた。ならば俺は俺の自我をすべて保存したい。まず自分でできることといえば、記録することだろう。
 そのための細かい日記を付ける。いつどこで何をしたか、何を食べたか、何を思ったか。この「何を思ったか」が自我を残す上で特に重要なはずだ。
 俺は常にメモを取り、寝る前にノートに清書する。清書作業中に考えた事、反省した事も書き記さなければならない。
 そしてまた考える。俺は何故こんなにも自我を残すことにこだわるのか。人生の貴重な時間を無駄にしてはいないだろうか。それをさらに書き綴る。
 夜が明けてきた。早く眠らなければ。「早く眠らなければ。」と書いてペンを置く。
 時計を見ると午前六時半。起床時間だ。今度は愛用の手帳を取り出す。
「六時半、一睡もせず。本日の予定と心構え――。今日の記録は起床時間までに書き終わるだろうか。」


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500文字の心臓 第67回タイトル競作投稿作
○1△4

森♀Oの「妄想」という短編を読んでいたら書けた話。