2006年11月28日火曜日

ブラックコーヒーに落とし物

「それ、飲ませて」
私の飲んでいたコーヒーを少年は指差した。
「いいけど、これ苦いよ」
私はブラックが好みだ。しかも冷めたのが。
「わかってる」
少年はコーヒーををゴクゴクと飲み、いかにも苦い顔をした。
「ほら、見ろ。苦かったろ」
顔とは裏腹に、戻っていく少年の足取りは軽く、背中はどこか堂々としていた。
返ってきたコーヒーは、甘い桃の香りがした。