2006年11月20日月曜日

だれにも見えない

 だんだんと沈みゆく夕日に照らされて、塔はアスファルトに影を落とした。 夕日が沈むのと速度を合わせて、塔の影は伸びていく。ぐんぐん伸びて、耳が生え、しっぽが生え、とうとう塔の影は巨大な猫になった。
 でもそれは、ほんの一瞬のこと。猫だと気づかれる間もなく日は沈みきって、影猫は消えてしまう。
 だれにも見えない、大きな塔と大きな影猫のお話。


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「夕やけだんだん」点字物語2006、出品 天の尺賞&高杉賞受賞
地域雑誌「谷中根津千駄木」86号掲載
イベント「超短編の世界」2008.12.14朗読作


この作品は、視覚障害のある方が点字で音読することを前提に書き下ろしたものです。