2006年8月31日木曜日

大根も脱帽

ボタンのように小っちゃな顔したダッタンのおっさんは、見栄を張ってでっかいカツラをかぶる。
ご満悦なダッタンのおっさんは脱兎の如くダッシュした。

There was an Old Person of Dutton,
Whose head was as small as a button,
So, to make it look big,
He purchased a wig,
And rapidly rushed about Dutton.

エドワード・リア『ナンセンスの絵本』ちくま文庫

2006年8月27日日曜日

お辞儀に怖じ気付く

チャートシーのとあるおばちゃまがおっしゃるところの「ちゃんとしたお辞儀」はちゃんちゃらおかしいのです。
超高速で回転し地面に沈下するおばちゃまを見たチャートシーの人々は、チャーハンも喉を通りません。

There was an Old Lady of Chertsey,
Who made a remarkable curtsey;
She twirled round and round,
Till she sunk underground,
Which distressed all the people of Chertsey.

エドワード・リア『ナンセンスの絵本』ちくま文庫

2006年8月26日土曜日

七才の夏

「一人で林に入るな」というじぃちゃんの言い付けを破って、虫取り網を持って林に向かった。
林に入ると真夏の日差しはことごとく遮られ、寒気がするほど暗かった。
「尻の青い者よ、何しに来た」
振り向いても誰もいない。
「下だ。尻の青い者」
見ると、夥しい数の蟻が足を這っていた。膝上まで蟻で埋め尽くされた足を見て声にならない叫び声を上げると、林全体が震えた。
大量の甲虫がこちらに向かって飛んで来る。今朝方、捕れなかった甲虫を、もう一度探したくてここに入ったというのに。
「なんと間抜けな子供だ」と甲虫は嘲笑った。
「僕は甘くない」
掠れる声で辛うじて言うと蟻も甲虫も一斉に笑った。
「またとない馳走だよ、お前のように、のうのうと入ってくる子供は。どんな樹液より、甘露だ」
甲虫が低い声で言う。
「やめぃ」
と声がして目の前に大きな蜘蛛が現れた。袈裟を着た蜘蛛に蟻も甲虫も動きを止めた。
「この子は寿朗の孫だろう、堪忍してやりなさい」
来た道を戻るように、と蜘蛛の坊さんは言った。坊さんの八本の手はあちこちを指したから、来た道はそれきりわからなくなった。

2006年8月24日木曜日

ハヤシライスのプライド

プラハの老いぼれが流行り病を発病してふらふらしている。ハヤシライスを与えたら、早口言葉を喚いて逸り立った。これで早々と快復したプラハの老いぼれ。

There was an Old Person of Prague,
Who was suddenly seized with the Plague;
But they gave his some butter,
Which caused him to mutter,
And cured that Old Person of Prague.

エドワード・リア『ナンセンスの絵本』ちくま文庫

2006年8月22日火曜日

うまずたゆまず

髭爺さんが馬の尻に馬乗りすれば、馬は跳ね上がり爺さんは悲劇。
卑下する髭爺さんは「うまくいくさ、おまえの私利は尻上がり 」と尻を叩かれた

There was an Old Man with a beard,
Who sat on a horse when he reared;
But they said, "Never mind!
You will fall off behind,
You propitious Old Man with a beard!"

エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より

2006年8月21日月曜日

琴線に触れる金銭

キルケニーのジリ貧貴族は、きれぎれの金をタマネギとハチミツで消して上機嫌。
気儘なキルケニー貴族。

There was an Old Man of Kilkenny,
Who never had more than a penny;
He spent all that money,
In onions and honey,
That wayward Old Man of Kilkenny.

エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より

2006年8月19日土曜日

ふらりとフランスへ

コブレンツの年寄りは途方もなく長い足で堂々歩く。
トルコからフランスまでなら徒歩で一歩。
超越なコブレンツの年寄り。

There was an Old Man of Coblenz,
The length of whose legs was immense;
He went with one prance
From Turkey to France,
That surprising Old Man of Coblenz.

エドワード・リア『ナンセンスの絵本』より

2006年8月18日金曜日

ひもじいライダー

財布の紐は固いくせに、褌の紐は瞬く間に解くライドの女。
のろまと痘痕に器用に跨がり、ライドの路地を今日も乗り回す。

There was a Young Lady of Ryde,
Whose shoe-strings were seldom untied.
She purchased some clogs,
And some small spotted dogs,
And frequently walked about Ryde.

エドワード・リア「ナンセンスの絵本」より

2006年8月14日月曜日

氷の世界

姫の歌は、声になる前にすべて凍りつき、氷の珠になって白い大地を転がった。
ぼくはどうしても姫の歌を聞きたくて、珠を拾って胸に抱いたけれど、それはぼくの想いでも体温でも溶かすことは出来ない。
姫は歌い、ぼくは歌を抱く。
何も聞こえない。

ドラキュラを歓迎するレオナルド・ションヴォリ氏

遥か昔、レオナルド・ションヴォリ氏がまだ子供だったころ、ニンニクはさほど臭くなかった。
ドラキュラがやってきた時、ションヴォリ氏はニンニクを176個使った料理でもてなした。
ドラキュラはそれ以来、ニンニクが嫌いである。

2006年8月13日日曜日

危険な卵

白と桃色の縞模様の卵がプールで泳いでいた。
卵の分際で水遊びか!ゆで卵にして懲らしめてやる。
ゆで卵になった縞卵を半分に切ると黄色と黒の縞模様の黄身で、とても食べる気にならなかった。

*縞*

2006年8月12日土曜日

これも縁

乗り上げたトラックに惚れてしまった環状77号線の縁石。
仕方がなくトボトボ歩いたのはトラックの運転手とトラックが運んでいた荷物。

*縁*

2006年8月10日木曜日

子供に捕まった月の話

午後九時、虫取り網を持った子供を見つけて月は声を掛ける。
「やい、子供。こんな時間に網なんぞ持ってどうするつもりだ」
子供は夜空を見上げて答える。
「お月さんを捕るんだ」
月は苦笑する。こんな子供に捕まっては堪らない。
「こんな網では月は捕まらない。月を捕まえるのは、事前の準備とコツがいる」
「おじさん、それ、全部教えて!」
月は、メモを取る子供に延々ニ時間質問攻めに合った。
おまけにジンジャーエールを二本も驕ったのだった。

*網*

2006年8月9日水曜日

夕焼けおすそ分け

夕焼け雨が降っている。何年振りだろうか。
大急ぎで白い木綿の布を持って外へ出た。
物干しに掛けて布を雨に当てる。
夕焼けが消える寸前に、布を引き上げ、絞った。
「あぁ…」
広げると夕焼けとまったく同じ茜色の布。私は夕食の仕度も忘れてうっとりと布を眺めた。

翌朝、すっかり乾いた布はもとの白い木綿に戻っていた。
そのまま畳んで箪笥のひきだしに仕舞う。次の夕焼け雨は、明日か十年後かわからないけど。

*綿*


2006年8月5日土曜日

迷い

縹色したリンゴ。毒リンゴみたい。
「確かに、これは毒リンゴだ」
あら、当たった。毒リンゴなんかどうするの?わたしに食べさせる気?
皮だけじゃなく、実まで縹色してる。
「綺麗だろう?」
リンゴじゃなければ。
「さぁ、お食べ。これが最後の食べものだ。」
でも、毒なんでしょう?私たち、この最後のリンゴを食べても食べなくても死んでしまうのね。
あ、蟹だ。

大きな蟹は縹色のリンゴを食べて、ますます大きくなると、満足そうにゲップをした。

*縹*

2006年8月4日金曜日

みみずの籠

みみずを編んで、籠を作る。そこに痩せた土を入れておくとみみずがせっせと食って出して、籠の中は黒いほくほくな土でいっぱいになる。といいのになぁ。
妄想しながら土地を耕す。みみず一匹出て来やしない。堆肥の匂いが強くなった。

*編*

2006年8月2日水曜日

製本

紙を針で突き破り、糸で繋ぎ合わせる。
単なる紙の束だったものが、本になる。傷をたくさん付けたのに、本になる。
本は饒舌だ。さっき本になったばかりのくせに、もう澄ました顔で語っている。
表紙を付けないうちは半人前だよ、と言い聞かせる。聞き分けは、あまりよくない。


*綴*