2006年6月12日月曜日

指輪が香る

ブッと葡萄の種を出したら、輝く紫色の粒だった。
「アメジスト?」
と呟くと、それはいっそう輝いた。
「なぜ、こんなところに?」
と聞くが、さすがにそれには答えない。
私は葡萄の種だったアメジストを水で洗った。
洗っても洗っても葡萄の香りは消えなかった。

アメジストは指輪にした。私の手が動くとアメジストが香る。
レジでお金を払えば、店員は不思議な顔した。
子供は喜んだ。「ブドウのにおいだ」

恋人は唇にキスしなくなった。
犬のように私の手を舐め回す恋人を見下ろしながら考えた。
指輪ではなくネックレスにすればよかったかしら、
それともピアスにすればよかったかも。
悔しいので指輪を唇で挟んでキスをねだる。
葡萄の香りが鼻腔を擽る。
いつのまにか私は夢中で指輪をしゃぶっていた。