2006年5月3日水曜日

香典

午後十一時。白く浮かび上がる人影に私は凍りついた。
ハヌマンラングールに違いない。
顔が黒いから、表情を窺うことはできない。
私は鞄の中に、昼休みに食べ残したメロンパンがあることを思い出して、少しホッとする。
ハヌマンラングールは息のない子供を抱えていた。
私に気付いた彼女は立ち止まると「これから弔いなの!」と叫んだ。
私は耳を塞ぎたい気持ちをなんとか抑え
「メロンパンしかありませんが……」
とメロンパンを差し出した。
ハヌマンラングールは無言で受け取ると、音もなく去った。

【オナガザル科ハヌマンラングール インド 準絶滅危惧種】