2006年1月9日月曜日

老いた少年の歌声

少年は九十二才である。
いたずらが大好きな彼は、ニヤリと目を輝かせると、曾孫の靴を履いて外に出て、歌い始めた。
あまり大きな声ではないけれど、行き交う人の中には足を止めて聴き入る者もある。
「どうもありがとう」
満面の笑みの少年が、曲がった腰をもっと曲げてお辞儀をする。
曾孫の靴を脱ぐと、コインやキャンディーをひとつづつ拾い、靴の中に入れる。
コインやお菓子で一杯になった靴を大事に抱えて、少年は家に帰る。
曾孫の驚く姿を想像しながら。

《Fagotto》