2005年7月30日土曜日

大木パビムン

パビムンは大木に寄り掛かって、待っている。
昼は夜を待ち、夜は朝を待った。
時折、パビムンを憐れみ施しを与える者があったが
パビムンは無関心だった。
パビムンは施しを待っていない。
晴れの日は雨を待ち、雨の日は晴れを待った。
時折、パビムンに話し掛ける旅人がいたが
パビムンは返事をしなかった。
パビムンは話し相手を待っていない。
今、パビムンが待っているのは、死である。

2005年7月28日木曜日

ワンナノサウルスと、硬貨

ワンナノサウルスが頭を下げるのは、謝っているわけでもお辞儀をしているわけでもない。
だが、人々は喜んで頭を撫でていく。
中には、拝んでいく人もいる。
小さな子供も、親に促されて頭を触る。
いつの間にか、硬貨を投げる人も出てくるようになった。
「ワンナノサウルスよ、おさい銭、おさい銭」
慌てて財布から硬貨を出す。
ワンナノサウルスは、硬貨が顔に当たるのを嫌がって、頭を下げる。
するとますます硬貨が投げられるので、彼らは頭があがらない。

《Wannanosaurus 白亜紀後期 全長1メートル》

2005年7月27日水曜日

竜巻【たつまき】

竜を巻いた鮨で珍味とされる。
竜は乱層雲の底からしか捕れない貴重なもので、ハンターは、巨大な渦に巻き込まれる。

The tornado is a sushi made from the dragon.

2005年7月26日火曜日

ティラノサウルスに、集う

たいていの空き地には、ティラノサウルスの頭骨が転がっていて、ネコの昼寝場所になっている。
夕暮れの子供たちはティラノサウルスの頭に腰掛け、秘密を打ち明け合う。
木の枝にもしばしば、ティラノサウルスの頭骨がぶら下がっている。
鋭い歯の生えた口の中や、睨みを効かせた目玉のあとに鳥や小動物が住んでいる。
暴君は穏やかな死後を送っている。

≪Tyrannosaurus 全長14メートル 白亜紀後期≫

2005年7月25日月曜日

トリケラトプスと、壁

トリケラトプスはツノがかゆい。
手頃な壁を見つけては、ツノを研く。
人気の壁は、穴があく始末。
おかげで迷惑したのがネズミだった。
トリケラトプスのツノ研ぎの振動や穴は、ネズミたちの住まいや道を破壊した。
そこで、ネズミはトリケラトプスの頭のフリルの中に住むことにした。
めでたしめでたし。

《Triceratops 白亜紀後期 全長9メートル》

2005年7月24日日曜日

ステゴサウルスと、画学生

お洒落なステゴサウルスは考えた。
「もっともっと素敵になるには、どうしたらよいでしょう?」
ステゴサウルスは、いいことを思いついた。
まもなく、ペンキと筆を持った若者たちがステゴサウルスの背中にあがった。
自慢の装甲板に、絵を描いてもらうのだ。
若者たちは、思わぬキャンバスを得て喜んだ。
自分の作品が街を歩くのだ、張り切らずにはいられない。
なんだかくすぐったかったけれど、世界一素敵になったステゴサウルスは、今日も街を練り歩く。

《Stegosaurus ジュラ紀後期 全長9メートル》

2005年7月22日金曜日

スコミムスと、魚屋

スコミムスはいつも魚屋の前でうろうろしていて、おこぼれを待っている。
よだれを垂らしながら物欲しげにしているスコミムスに魚屋の店主や客は、仕方なく魚を投げてやる。
図体のでかいこの無賃客に困った店主は、
一度スコミムスを追い出したことがあった。
ところが、どういうわけか客足が遠退き
結局、一週間もしないうちに向かえに行ったのである。

《Suchomimus 白亜紀前期 全長11メートル》

2005年7月20日水曜日

パキケファロサウルスと、タマゴ

パキケファロサウルスの頭骨は、ほとんどの家庭のキッチンに置かれている。
タマゴを割るのにもってこいだからである。
生卵を割るのもゆで卵を剥くのも、全く見事である。
小さな子供が、初めて覚えるお手伝いは、パキケファロサウルスでタマゴを割ることである。
これでホットケーキを作るのだ。
残念ながら、パキケファロサウルスは、タマゴを割るのが得意なことを生前は知らない。

《Pachycephalosaurus 白亜紀後期 全長5メートル》

2005年7月18日月曜日

オウラノサウルスと、トラック

オウラノサウルスは、長距離トラックに欲情する。
賑やかな電飾や、ペイントがあればあるほど夢中になる。
一度気に入ったなら、ハイウェイまでも追い掛ける。
一台のトラックを巡る争いもしばしば起きる。
だが、オウラノサウルスがそうして戦っている間に、トラックはいなくなっている。トラックは忙しいのだ。
そもそも、いくら求愛しようとトラックは卵を産まない。

《Ouranosaurus 白亜紀前期 全長7メートル》

2005年7月17日日曜日

ミクロラプトルと、摩天楼

ミクロラプトルのグイは、夜の摩天楼を滑空する。
巨大なビルディングを上から眺めるのは、実によい気分だ、と彼は思っている。時々、飛行機が彼の遥か上を飛んでいくが、対抗する気はない。
「上には上がいる」ことをミクロラプトルは知っている。

《Microraptor gui 白亜紀後期 全長0.7メートル》

2005年7月16日土曜日

ランベオサウルスと、ネオン

ランベオサウルスは、ネオン街の客引きをしている。
彼が勤める店の名は「パブ・エンジェル」
蝶ネクタイをしめ、恭しい態度で、道行く人に声をかける。
ランベオサウルスのトサカは、どのネオンよりも明るい。

《Lambeosaurus 白亜紀後期 全長15メートル》

2005年7月15日金曜日

ジンシャノサウルスと、横断歩道

ジンシャノサウルスは、横断歩道の脇に立って、歩行者の安全確保に努めている。
長い首を方々に動かし、気を配る。
赤信号を無視する者を見つければ、前に立ちはだかかり
年寄りや身体の悪い者は、ひょいとくわえて、向こう側に渡してやる。
全長8メートル余りのジンシャノサウルス、己が通行の妨げになっていることには、まだ気付かない。

《Jingshanosaurus ジュラ紀前期 全長8.6メートル》

2005年7月14日木曜日

月面炎上

ニュースキャスターは言った。
「Mr.オルドリンの、煙草の不始末によるものと思われます」

********************
500文字の心臓 第50回タイトル競作投稿作
○1

2005年7月13日水曜日

にんにく【ニンニク】

吸血鬼除けのために品種改良が進められたユリ科の植物で、強い臭気がある。
食すると侮辱や迫害に耐え忍ぶことのできる心を養う。

The insult and the persecution can put up by eating garlic.

2005年7月12日火曜日

インキシボサウルスと、時計

インキシボサウルスは、時計がお気に入りで時刻を触れて回っている。
甲高く掠れた「午前七時ちょうどです」という声は人々を閉口させたが、いつの間にか、すっかり頼りにされている。
インキシボサウルスに、狂いはないのだ。
彼を探す時には、尾にぶら下げた時計より、前歯が目印になるだろう。

《Incisivosaurus 白亜紀前期 全長1メートル》

2005年7月11日月曜日

ヒプセロサウルスが、広告

ヒプセロサウルスが、ご自慢の青いマフラーをたなびかせて、通りを歩く。
皆がヒプセロサウルスを注目する。
立ち止まって指差す者もある。
手を振る者さえある。
青いマフラーは、近所の雑貨屋「ダイナストアー」の店主がくれた。
「お前さんにプレゼントだ。特別製だよ。長い首に似合うといいんだが」
ヒプセロサウルスは、大層喜んだ。
店主は、続けて言った。
「そうだ。これを巻いて町を歩いてくれた日には、お前さんの好きなキャベツをあげるよ。約束だ」
それが彼に与えられた仕事だと、ヒプセロサウルスは知らない。

《Hypselosaurs 白亜紀後期 全長12メートル》

2005年7月9日土曜日

ゴヨケファレと、ネコ

ゴヨケファレが、町中でネコを追い掛けている。
ネコは、靴屋の看板娘のエリザベス。
エリザベスは、もう二十分もこうして追い掛けられている。
エリザベスが高いところや、狭いところに入っても
ゴヨケファレは必ず見つけて、また追い掛けっこが始まる。
ゴヨケファレは、飢えているわけではない。
ゴヨケファレの好物はピーマンなのだ。


《Goyocephale 白亜紀後期 全長2メートル》

2005年7月8日金曜日

フクイサウルスは、迷子

フクイサウルスは、歩く。
スクランブル交差点、ビルの屋上、地下道。
えっちら、おっちら、歩く。
きみなら彼に声を掛けるかもしれない。
「やあ、フクイサウルス。どこ行くの?」
フクイサウルスは、笑って答える。
「迷子なの」
えっちら、おっちら、歩くフクイサウルスは、なぜだか笑ったままなのだ。
とても楽しそうなのだ。
あまり迷子には見えないけれど、デパートの中、大通り、野外劇場。
フクイサウルスは、たぶん母を探して歩いている。

《Fukuisaurus 白亜紀前期 全長4.7メートル》

2005年7月7日木曜日

エルリコサウルスと、ピアノ

エルリコサウルスは、ピアノがお得意なのを、ご存知だろう。
彼は非常に恥ずかしがり屋であるから、ピアノを弾く姿を見るのは難しい。
しかし、お披露目の機会は、やってきた。
街の発表会にエルリコサウルスは、招かれたのである。
今まで噂だけで、誰も見たことがなかったエルリコサウルスの演奏を見られるとあって、会場は満席である。
彼が舞台に登場すると会場は、大歓声に包まれた。
いや、悲鳴だったといっていい。
青いリボンを巻いたエルリコサウルスは、舞台の天井を突き破りながら現れたのだから。

《Erlikosaurus 白亜紀後期 全長5メートル》

2005年7月6日水曜日

スーパーマーケットに、ダケントルルス

ダケントルルスがスーパーマーケットで、野菜を吟味している。
「あら、イイほうれん草ね。ブロッコリーもおいしそう」
だけど、ダケントルルスにスーパーマーケットの通路は狭すぎる。
ご立派なスパイクに、沢山の商品を突き刺しながら、ダケントルルスはお買い物。
店長が追い掛ける。


《Dacentrurus ジュラ紀後期 全長4.5メートル》

2005年7月5日火曜日

クリョロフォサウルスが、挨拶

「はじめまして。ぼく、クリョフォ……?」
彼の名は、クリョロフォサウルス。
「では、ここにサインをお願いします」
「OK、Cryol……??」
彼の名はCryolophosaurus。
気の毒なクリョロフォサウルス、己の名が覚えられない。

《Cryolophosaurus ジュラ紀中期 全長7メートル》

2005年7月4日月曜日

バガケラトプスが、散歩

バガケラトプスは散歩が好きなんである。
お気に入りの首輪をはめて、喜ぶんである。
バガケラトプスは、お洒落なんである。
「今日はいいお天気だから、公園に行きましょうよ」
そうは言っても、散歩の道は、決められないんである。
二本足に、従わなければならないんである。
バガケラトプスは、ペットなんである。

《Bagaceratops 白亜紀後期 全長0.9メートル》

2005年7月3日日曜日

バス停に、アンキロサウルス

アンキロサウルスがバスを待っている。
もう三時間も待っている。
バスが来ないわけではない。
バスは彼女の前を通り過ぎて行くのだ。
「んもぅ。運転手は、あたしが見えないのかしら」
また、一台バスがやってきた。
「待って!乗ります!」
と彼女は叫んだが、バスは速度を落とすことなく通り過ぎた。
残念ながら、バスはアンキロサウルスよりも小さい。

《Ankylosaurus 白亜紀後期 全長9メートル》

2005年7月1日金曜日

ナマケモノ【ナマケモノ】

�� 生の獣、の意。
煮焼きしていない、生のままの獣。
類:ナマゴム、ナマコンクリート、ナマキズ、ナマクリーム、ナマビールなど

2 ナマケモノ科の哺乳類。

Choloepus means a raw beast.