2005年1月31日月曜日

異常気象

強い冬型の影響で、関東地方におびただしい数の卵が降りました。
卵は地面に落ちて割れ、街路樹にぶつかり割れ、傘に命中して割れ、至るところぐちゃぐちゃのベタベタ、殻のカケラも散乱し、生臭い匂いが漂い、それはそれはすさまじい有様でした。
フライパンや鍋を持って外にでる人もいましたが、勢いよく降ってきた卵は飛び散り、鍋が汚れるだけでした。
人々は、天気省に訴えました。ちゃんと食える卵を降らせろ、と。
天気省の役人たちは、国内外の古文書を紐解き、ニワトリの生体や古い雨乞いの儀式を研究しました。
雨乞いの儀式を改良すること67回、天気省はゆで卵を降らすことに成功しました。
儀式が成功すると、ゆで卵はゆっくりと降ってきました。子供たちはポケットに塩を入れ、降ってきたゆで卵をキャッチしておやつに食べました。
しかし、儀式が失敗すると弾丸のような勢いで降ってくるゆで卵に当たり、たくさんの人が死にました。

2005年1月30日日曜日

ションヴォリ氏の好物のこと

レオナルド・ションヴォリ氏はうずらのタマゴが大好きで
ゆで卵も目玉焼きもうずらのタマゴ。
でもションヴォリ氏は食いしん坊のじいさんなので
ゆで卵なら16個、目玉焼きなら14個のうずらのタマゴが必要だ。
主水くんはいつも市場で大量のうずらのタマゴを購入するので
市場のおばちゃん連中に
「やあ、うずら買いのモンドちゃん!お宅の博士は元気かい?!まったくレオナルドときたら!一体ニワトリのタマゴの何がお気に召さないんだろうね!」
とカッカと笑われる。
主水くんは顔を赤くしながら、今日も30個のうずらのタマゴを買う。

2005年1月29日土曜日

コレクション

タマゴを割ると、蝶の羽が出てきた。
一枚。右の羽だ。
気味悪さに思わず後じさりするが、気を取り直して蝶の羽を拾いあげた。
「アオスジアゲハだ…」
虫捕りが好きだった子供の頃の気持ちが蘇る。羽を捨てる気はなくなっていた。
蝶の羽入りタマゴは、タマゴパックにひとつあることがわかった。
羽が出るとなんの蝶の羽かを図鑑で調べた。
オオムラサキ
ムラサキシジミ
オオカバマダラ
シンジュタデハ
数の少ない蝶、海の向こうの蝶の羽も頻繁に出てきた。
いつのまにか、僕の食事はタマゴ料理だらけになった。
オムライス
かに玉
親子丼
卵かけご飯
部屋の中は夜になってもキラキラと輝いている。
僕が動くたび、鱗粉が舞い上がる

2005年1月28日金曜日

月夜のたまご

小包には「お月さんより」と書いてあるので、月が贈ってくれたということにする。
 実際、僕は月をよく眺める。そして、あれこれ語りかける。
自分の部屋の勉強机に向かうと、月がよく見える。勉強より月を眺める時間が長くなるのは、当たり前でしょう?
毎日話を聞いてもらっているから、学校の友達とは違うけど、月も友達なんだと思う。
友達と呼ぶ以外適当な言葉をが見つからない。
 その友達から小包が届いたから、僕は実のところかなり興奮していた。月がプレゼントをくれるはずがないと知りつつ、鼓動は速くなった。
 中には、たまごが入っていた。
たまご?お月さんがたまご?お月さんとたまご?お月さんのたまご?お月さんはたまご?
 僕は夜になるのを待ち、月に聞いた。
「プレゼントありがとう。たまごが入ってた。あのたまごはなに?」
「割ってごらん」
僕は驚いた。たまごが本当に月からの贈り物だとわかったからではなくて、月が初めて返事をしてくれたから。
 たまごを割ってどうなったかは、秘密だ。そう月と約束した。今夜も月と話をする。

2005年1月26日水曜日

キミは誰

ピンポーン
玄関を空けると大きな籠を抱えた女が立っていた。
「大事にしてください」
と籠から透明なボールを取出した。
「風呂場に置いておくものです、どうぞ」
「受けとれません」
「お金はいりませんから…」
女は強引にボールを押し付け、去っていった。
ボールはよく見ると中に黒っぽいものがあった。
プニプニとしていて触り心地もいい。
置くところもないので女に言われたとおり風呂場置いておくことにした。

ピンポーン
数日後、また女は現れた。籠はもっていなかったが、子供を八人も連れていた。
「またあなたですか」
「ちゃんと風呂場においていただきましたか」
「ああ、あのボールね。風呂場にあるよ」
女は聞き終わらないうちにずかずかと部屋に入った。呆気に取られて止めることもできない。
「ありがとうございました」
女は子供の手を引き玄関に戻ってきた。
「大変お世話になりました」
女は九人の子を従えて帰って行った。

2005年1月23日日曜日

相談があります。

ひとつのタマゴから4個のゆで卵ができました。
タマゴをひとつ、鍋にいれ、しばしキッキンを離れました。
新聞を読んでいたのです。
キッチンに戻り鍋を覗くと、タマゴは四個になっていました。
わたしはどうしたらいいでしょうか。

親の心、子知らず

道端で拾ったタマゴ。
両手におさまるくらいの真っ白なタマゴ。
あんまり手触りがよかったので
毎日なでなで、ほおずり していたら
ぷきゅぷきゅ
と鳴き声が聞こえた。
どんなにかわいいヤツが産まれるんだろう!とワクワクしていた。

小さなヒビが大きな亀裂となる。
とうとう逢えるんだね。俺をママだと思っちゃうかな?それならそれで、愛情たっぶりに育てるよ。
手をそっと差し出す。すぐにでも触れたいよ。早く出ておいで…。
「どっこいせ。あ゛~」
出てきたのはネクタイの緩んだ冴えない親父。
俺のてのひらの上で欠伸をする父親。
「親父…」
「久しぶりだな、倅よ。逢いにきたぞ」

2005年1月20日木曜日

きいろのクレヨン

坊やは絵を描きました。
とてもよく描けた、と思いました。
「これなあに?」
「おつきさま」
坊やのおかあさまは、坊やの絵を見て目玉焼きが食べたくなりました。
 お昼ご飯はトーストと目玉焼きとサラダとミルクです。
坊やとおかあさまはおいしくいただきました。
坊やはお昼ご飯の後、またスケッチブックを広げました。
おかあさまには、先のおつきさまの絵と変わらないように見えました。
坊やは今、月に夢中なんだわ、と思いました。
そういえば、おとといの夜、車の中から見た満月に興奮していたものね。
「上手ね、おつきさま」
「たまご」
坊やは少し気を悪くしました。
おつきさまとたまご、まるきり違うものなのに、なぜおかあさまはわからないのだろう。
きいろのクレヨンが転がりました。

2005年1月19日水曜日

愛の理由

〔私の彼はスクランブルエッグを作るのが得意です〕

[単なる炒り卵だけど]

〔少し塩っ気が多いスクランブルエッグをトーストにのせて食べるのが、私の朝食の定番〕

[え?塩辛いなんて聞いたことないぞ]

〔彼の作る卵料理は黄身がピンク色なの〕

[どうして色が変わるのか、わからない]

〔ゆで卵も、目玉燒きも黄身はピンク〕

[割ってすぐは黄色いんだけど]

〔生タマゴも、溶いているうちにピンクになってる〕

[かなり気色悪い]

〔私、ピンク大好きよ〕

[俺のことは?]

〔ピンクのタマゴを作ってくれるあなたが好き〕

[ピンクじゃなくなったら?]

〔あなたと一緒にいる価値はなくなるわ〕

2005年1月17日月曜日

ピクルス街迷妄

赤信号で停まっていると、兎がウサギ型の風船を売りにきた。
「いくら?」
「dock bock」
ぼくは兎に5¢やってサイドミラーに風船をくくりつけた。

「おーい!マッチをくれ」
マッチをカゴ一杯に入れて歩く少女を見つけて車中から声を掛ける。
ぼくは煙草が吸いたい。
マッチ売りの少女はまっすぐ前を見て歩き、ぼくの声に振り向くこともない。

山羊がヤギの指人形を両手につけ、コントをしている。
立ち止まる者はいない。

波止場で車を降り、ウサギ型風船を右手に持って歩く。
波間に浮かぶリンゴたちが月に照らされている。

車に戻ると、ボンネットに空き瓶とマッチの燃えさしがひとつ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
1.17に寄せて
佐々木マキ「ピクルス街異聞」1971年をモチーフに

コロコロ

ボールがコロコロと転がっている。
それを子供が追い掛けている。
私はボールを拾い子供に渡す。
ボールは子供の手を擦り抜けコロコロと転がっていった。
タマゴがコロコロと転がっている。
それを赤ん坊を背負った若い女が追い掛けている。
私はタマゴを拾い女に渡す。
タマゴは女の手を擦り抜けコロコロと転がっていった。
地蔵の頭がコロコロと転がっている。
それを老人が追い掛けている。
私は地蔵の頭を拾わずに、老人を見送った。

2005年1月16日日曜日

隣人

 隣人が庭に穴を掘りはじめて何ヶ月になるだろうか。
 隣に住む男は定年退職をしてから毎日庭に出て穴を掘り出した。道具は何も使わず、素手で直径五十センチほ
どの穴を掘っていく。
 朝は九時ちょうどから始め、夕方は五時きっかりまで。土曜日、日曜日は庭に出ることはあっても穴を掘ることはない。まるで勤め人のようなスケジュールである。
 我が家の庭と隣家の庭の間には腰の高さほどのフェンスがあるだけだ。お互い目隠しになるような樹木を植えることもなく、我が家の居間の窓からは隣家の庭のダイニングがしっかり見渡せる。以前は覗きをしているようで、また覗かれているようで気になっていたが、穴を掘るようになってからは頻繁に庭に目をやるようになった。 穴はまもなく大きくなり、隣人の姿は穴に隠れて見ることが出来なくなった。穴の傍らに積まれた土も少しづつ高くなっているようだ。穴の中の様子を見てみようと、二階のベランダから覗いたこともあったが角度が悪く、また盛られた土が邪魔をして、穴の中までは見えなかった。
隣人は妻と二人暮しである。子供もいるようだが、私たち夫婦がここに越して来た時には家を出ており、顔も知らない。夫妻は顔を合わせれば挨拶をするし、頻繁に寄り添ってスーパーなどへ買い物に出かけている姿を見
掛ける。仲の良い夫婦だと近所でも評判だ。しかし実際は、週に数回妻のヒステリックな声が聞こえてくるのだ。「こんにちは」と、にこやかに言うこの妻に対して「お宅の旦那さんはずいぶん熱心に庭作りをしておられますね」という言葉をこの数か月の間に一体何度飲み込んだだろう。
穴はここ数日でさらに深くなったようだ。積み上がった土は穴の周りをぐるりと囲み、徐々に高さを増していく。妻が夕方五時に庭に出きて、いつものように「あなた、もうおしまいにしたら」と言う。乱暴に、サンダル履きの足で積み上がった土を穴に蹴落としながら。
その日から妻のヒステリックな声は全く聞かれなくなった。

きららメール小説大賞投稿作

2005年1月15日土曜日

酔いしれて黄色

いつものバーに入ると席は既にいっぱいだった。
十四席しかない小さな店だ、珍しいことではない。
髭ヅラのマスターがすまなそうに眼差しを送ってきた。
その眼差しに苦笑いが含まれているのに気付いて、もう一度店内を見渡すとカウンター席のひとつに巨大なタマゴが居座っていた。
しかし大きいこと以外、普段食べる鶏卵と変わらないようだ。
タマゴは頬を上気させ、何事かを語っていた。
客はみなタマゴの話を真剣に聞いているようだ。
私は酒を諦めて帰ることにした。
「また来るよ」
マスターにそう言って店を出ようとすると
タマゴ以外の全員がこちらを振り返り、私を睨みつけた。
二十六個の目玉はドロリとした黄色い光りを放っていた。

2005年1月14日金曜日

淑女の好みは

とにかくカタイのがいいのよね。
とゆで卵を壁に投げ付けながら笑うのは、カクテルドレスを纏った我が妻。

2005年1月12日水曜日

塀から落ちるな

東の島生まれの人、ミスターダンペイ・ハンムラは
大のタマゴ好きで、タマゴを殻ごと食べていたそうだ。
唇や口の中に殻のカケラが刺さり、血が流れるのも構わずニヤニヤと笑いながら大きな音をたてて食べるその姿に人々は畏敬の眼差しを向けた。
また人々は、ミスターハンムラの故郷では、みな血を流してタマゴを食すものと信じて疑わず
「日出づる地には鶏卵を携帯するべからず」
ということわざが生まれた。
半村団平こそ、我が国の養鶏の祖にして最大の変人である。

2005年1月10日月曜日

6個入りタマゴパック

一つ目を割ると、りんごが出てきたので噛った。
二つ目を割るとチョコレートが出てきたので娘にやった。
三つ目を割るとルンペンが出てきたので食べかけのりんごをやって追い出した。
四つ目を割るとホステスが出てきたので夫にやった。
五つ目を割ると恐竜の子が出てきたので動物園に電話した。
六つ目を割るとめんどりが出てきたので卵を6個産ませた。
なにはともあれ。

2005年1月8日土曜日

タマゴのなる木

今年も庭木にタマゴがなった。
なんという木かは知らないし、調べたこともない。

この古い一軒家を四年前に買った時から、庭は全くいじっていない。
庭が欲しいという願望はなかったが、条件のよかったこの家には庭があり、木がいくつかあった。
鬱蒼としているわけでもなく、外から丸見えというのでもなく。
私はそれをよしとした。
そして声に出して「よし」と言った。
冬になるとそのうちの一本に白いタマゴがたわわになった。
雪の多いこの土地では、近隣の人々にそれを気付かれることもない。
私はタマゴを一つもぎ、目玉焼きを作った。
私がそれまで食べてきた目玉焼きとなんら変わりなかった。
「よし」と私は言った。
今年も庭の木にタマゴがなった。

2005年1月7日金曜日

EGG & COIN

ゆで卵の中に硬貨が入っていたら、こんなラッキーなことはないよね。
健太が口の中から一円玉を出すと、テレビ局が取材に来て一万個もゆで卵を食べるはめになったんだって。
十円玉がゆで卵から出てきた奈津子は、一万円の募金を迫られたってさ。
太郎は百円玉を噛って前歯が折れて、治療に一万かかったらしい。
ゆで卵から硬貨が出てくるとまったくロクなことがないね。

2005年1月6日木曜日

朝ですよ

高校生の息子を毎朝起こすのは至難の技である。
怒鳴っても蹴飛ばしても猫撫で声を出しても起きない。
このねぼすけ、誰に似たんだか。
今朝、テキは新しい作戦に出た。
ベッドには巨大な卵。しばし呆然。
耳をあてると寝息が聞こえてくる。
確かに息子はこの中にいる。
思わずホッと息をつく。
この中で寝るのはさぞかし心地良いだろう。一体どうやって卵に入ったのか。
母も日曜くらいはこんな卵に入って昼まで寝てみたいよ。起きたら聞いてみなくては。
私は張り切ってトンカチを取りに行った。

2005年1月5日水曜日

タマゴマゴマゴ

「タマゴがまごまごしてるよ」
とままごとをしながら孫が言う。まさかと思ったが、ごましおをつけたユデタマゴがまごついていた。
孫と相談した結果、真心こめて多摩墓地に埋葬することにした。

2005年1月3日月曜日

ゲラヒマル

とある島の山奥に棲む鳥は、秋に白い花を付ける高い木の頂上に巣を作り、卵を一つだけ産む。
鳥は島で最も大きく、最も数が少ない。木は島で最も高く、最も数が多い。
卵は円錐形をしており、母鳥が温めるためにその上に座ると腹部に突き刺さる。
血は巣から滴り落ち、地面に染み込む。
ヒナがかえると同時に母鳥は死ぬ。
もしもヒナがかえる前に母鳥の命が絶えれば、卵もまた死んでしまう。
死んだ母鳥は既に干からび、ヒナはその姿を見て「へ」と鳴き、すぐに飛び立つ。
母鳥のミイラを頂上に掲げた木はその年、紅い花を咲かせる。
「ゲラヒマル」現地の言葉で「紅いミイラ」。
鳥と木は同じ名前を持つ。

2005年1月1日土曜日

朝食は食パンと目玉焼きが定番。目玉焼きには食塩を少々かけます。
昼食は職場の食堂で同僚と一緒に食事です。今日は生姜焼き定食を食べました。
夕食は我が家の食卓で食べましょう。食材は新鮮なものを選びます。食費は多少かかりますが、食中毒になってはいけません。
そうそう、食後には焼酎が待っています! 職場で起きたショックなことを焼酎に処分してもらいましょ。

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500文字の心臓 第45回タイトル競作投稿作
×1

最強の処遇

買ってきた玉子をパックごと落としてしまった。
ぐせゅ
いやな音である。料理をするときには何も感じないのに、落とした玉子は「卵」感が濃厚だ。ナムアミダブツ。
私は後片付けに取り組む。割れた玉子の中身はボウルに入れていく。殻のカケラを取り除いて、オムレツかなにかにして食べてしまおう。
お。
あれほど盛大に落としたのにひとつだけ割れていないものがあった。
なんて強いヤツだ。コイツは仏壇にでも供えるか。