2004年10月18日月曜日

テレビのあなた

液晶テレビを買った。
家族会議を重ねること八回、最後まで反対していた母も、そわそわしている。
「よし、これで全部繋がったはずだ」
父の言葉を合図に電源を入れると、中折れ帽をかぶった紳士が現れた。
口元に笑みをたたえ、お辞儀をした。
チャンネルを変えても、紳士は現れる。
紳士は喋らない。中折れ帽を手に取り〔さあ、どうぞ〕と言わんばかりにお辞儀をし、画面の隅に控えている。
番組が面白ければ静かに笑い、難しい話には頷き、下品な話には顔をしかめた。
気味悪がっていた家族もいつのまにか、テレビの紳士に挨拶するようになった。母などはすっかり紳士に夢中で、一日中テレビを見ている。