2004年9月13日月曜日

回れ右

バス停に着くと既にひとりおじいさんが並んでいた。
おじいさんは、麻のシャツを着て、パナマ帽を被り、ビシッとまっすぐ立っていた。まさに直立不動。
なんとなくおじいさんの意識をこちらに向けたくなかったので
僕はなるべく静かにさりげなく、その後に並んだ。
早くバスが来てくれないかしらん。
「やあ!」
突然、声が響いた。かわいらしくて元気な声。
でも、ここにはおじいさんと僕しかいない。
なのに、おじいさんは相変わらずビシッと立っていて驚く様子はない。
「やあ!今日も暑いよねー」
また声がした。やっぱり子供のような高い声。
おじいさんはそっと帽子を脱いだ。
白髪頭の上には白髪と同じ色をした小さなぬいぐるみが載っていた。
ぬいぐるみはぴくぴくと体を震わせながら言った。
「ねえねえ、どこ行くの?あ、バット持ってるんだ!野球?いいなー」
おじいさんは「回れ右」をして僕に言った。
「まっすぐ立っていないとコレが落ちるのでね」