2004年8月16日月曜日

女王蟻

「えーん」
「どうしたんだい?」
泣いている子供、三歳くらいだろうか。辺りにこの子の親らしき人はおろか、僕と子供以外は誰もいない。
仕方なく声をかけたが、うわずってしまった。子供と話すのには慣れていないのだ。
子供はパッと顔を上げ、言った。
「おなかすいた」
黒い瞳をまっすぐ向けたその顔は妙に大人びて、ますます焦る。
僕は嫌な汗が流れるのを感じながら、ポケットを探る。食べる物など入っていないのに。
しかし、手は飴玉を掴む。ないはずのものの出現に混乱しながも子供に差し出した。
「これしかないけど食べる?」
「ありがと」
ニヤリと笑って飴玉を口にほうり込み駆けていった。