2003年12月1日月曜日

冷えた椅子

林の中で見つけた小さな木製の椅子を、その足で近所の年寄りに見せることにしたのはなぜなのか、自分でもよくわからない。
「あぁ、もうこの椅子は死にかかっているよ。」
「どうしてわかるのですか?」
「ほら、ここを触ってみなさい」
私は塗装がはげ、泥がこびり付き、苔まで生えかかった座面に手をあてた。
「痛い」
「そうだろう、冷えきっているから痛いんだ。おまえさん、なぜこれを拾ってきた。
どうせならもっと良い椅子を拾えばいいものを」
「なぜって……」
「これが椅子だとよくわかったな」
そう言われてみると目の前にあるのは、椅子にはとても見えない朽ち果てた代物だった。
それでも拾わずにいられなかった。無我夢中で絡んだ雑草から引っ張りだし、積もった泥を落としてここへ持ってきたのだ。
私は涙を堪え、声を絞り出した。
「これは、ぼくの椅子だ。 ぼくの椅子なんだ。やっと見つけたんだ。」
「そうだ、よく言った……大事になさい。」

********************
500文字の心臓 第33回タイトル競作投稿作
△1×1