2002年9月22日日曜日

透明な視線

ぼわぁぁ……
生暖かい感触に包まれて、俺は思わず立ち止まった。
妙に生々しくて急激に血が巡りはじめるのを感じた。
さっきから人は一人も見なかった。
景色は雄大で、それがかえって孤独を感じさせた。
なのに、なぜか視線を強く感じる。
怒りにも似た恥ずかしさ……誰も見ていないのに、ひどく居心地が悪かった。
本当に誰もいないはずなのだ。
家を一軒づつ覗いてみたのだから。
それでも射るような視線を感じるのは何故だ?
誰もいないのにたくさんの家があるのは何故だ?
女に抱きつかれているような、この感触はなんだ?

「隠れて!」
生暖かいものがささやいた。
「え?!」
ざわざわと無遠慮な噂話が聞こえてきた。
「ちょっと、あの人身体が見えてるよ!」

パウル・クレー≪マルクの庭の南風≫をモチーフ