2002年5月31日金曜日

お月様が三角になった話

お月様は自分がまるいのを自慢に思っている。
「どうだ!まぁるくていいだろう?マルは美しいのだ」
「こちらではサンカクが重宝なんですよ。ほら、あのタワーを見てごらんなさい。サンカクがいっぱいだ」
「・・・あれは人気があるのか?」
「すごく有名だし、人気だよ」 
十五夜、こちらを見上げた者たちの驚きように、月はご満悦だった。

2002年5月30日木曜日

お月様を食べた話

「白ワイン『ルナ』3587年ものになります」
「『月のサラダ』でございます。」
「『サーモンのムニエル、月光ソース添え』です」

帰り道。
「今日はお月様をいっぱい食べたよ。すごくおいしかった」
月にひどく怒られた。

2002年5月29日水曜日

土星が三つ出来た話

酔った土星がえらく自分の輪を自慢するので、土星にそっくりの輪をかぶった人を二人連れて行ったら、とても喜んでいた。
土星は案外、寂しがりやなのかもしれない。

2002年5月28日火曜日

赤鉛筆の由来

赤鉛筆は、嘘をつけない。
太陽に誠を入れてもらい、さらに通りすがりの赤いホーキ星に真を入れてもらって、やっと赤くなったのだそうだ。
決して、赤いから赤鉛筆なのではない。
赤鉛筆がそういうのだから、間違いないだろう。
赤鉛筆は嘘がつけないのだ。

2002年5月27日月曜日

月夜のプロージット

十三夜の午後十一時ちょうど。
初めて使うお揃いのグラスに、汲み置いた水をいっぱいに注ぐ。
十一時三分、月の光がよく当たる場所に
丸テーブルを置き、その真ん中に二つのグラスを置く。
十一時十一分、「ルナと亀とその他のものに」
と唱えてグラスを合わせる。
どんな味がするのかは、月の気まぐれとあなたの想い次第です。

2002年5月26日日曜日

黒い箱

ある朝、ポストに小さな黒い箱が入っていた。
振ってみると、コトコトと音がする。
鍵穴がついているが、鍵はない。
知り合いの泥棒を呼んでみたが、開かなかった。
投げやりな気持ちで箱をくすぐってみたら、箱はよじれ、開いた。
中から出てきたものに向かって思わず言った。
「なんてこった!開けなければよかった!」

2002年5月25日土曜日

A ROC ON A PAVEMENT

歩いていく先に大きな石が見えた。
それは色がどんどん変わっていった。
目の前まで来たとき、石は紫になっていた。
傘の先でつついたら「ポキョーン」と音がしてどこかへ飛んでいった。
家に帰ると、さっきの石を小さくしたような紫の動物が
「ポキョーン ポキョーン ポキョーン」
と鳴き続けていた。

2002年5月23日木曜日

どうして酔よりさめたか?

黒猫が来た晩、しこたま酔っ払った。
翌日も翌々日も、酔ったままだった。
四日目になって、やっと風呂に入ったら
シャワーが言った。
「ケケケ。ずいぶん久しぶりじゃないのかい?何に溺れてたんだ? 女か?酒か?両方か?」
黒猫のヤツ、なんてことをしてくれたんだ……。
おかげで酔からさめたけれど。

2002年5月22日水曜日

月の客人

今晩、客が来ると言って月が忙しそうにしている。
どんな人が来るのかと訊ねると
「それじゃあ、見に来ればいい」
と言った。
真夜中、指定された場所に出かけてみると、とても賑やかで音楽も流れていた。
ただ、真っ暗で誰の顔も見えなかったけれど。

2002年5月21日火曜日

ニュウヨークから帰ってきた人の話

長い間音信不通だった知人がニュウヨークから帰ってきたと電話してきた。
彼は
「アメリカの月はとんでもないことになっている」
と言った。よくよく聞いてみると
「月が銀色の顔をしているんだ!」
帰ってきて月はどう見える?と訊くと
「ちゃんとうさぎが餅ついてるよ」

2002年5月20日月曜日

真夜中の訪問者

夜中フト目が覚めると、待っていたかのように玄関のチャイムが鳴った。
起き上がろうとすると
「どうぞ、そのままにしていてください。」と声がした。
そのまま何も音がしないので眠ってしまった。
翌日、何か変わったことがないかと、家じゅうを探し回った。
どうやら訪問者は一人ではなかったらしい。
たくさんの吸殻とともに台所で見つかったのは……。

2002年5月19日日曜日

自分によく似た人

自分によく似た人に会わせてやろうと黒猫が言うのでついて行った。
たしかにそこには自分自身がいた。
驚愕し、黒猫を見ると得意そうな顔をしている。
が、決定的な違いに気づき大笑いしてやった。
その自分はいつも見ている自分だったのである。

2002年5月18日土曜日

THE WEDDING CEREMONY

男女が仰向けになっていた。
危うく踏み潰しそうになったので
「ごめんよ」
と言ったら、
「祝い事なので」
と相伴させられた。

2002年5月17日金曜日

銀河からの手紙

「Dear Sir,
 I want to consult about the moon.
 Please meet and talk tomorrow.
 Love is put from that direction of 2,300,000LightYears
Man of the Galaxy A」

翌日、現れた男は、月の悪口を散々言うと、満足そうに帰っていった。

2002年5月16日木曜日

HOLD UP

「手を挙げろ!」
「!」
「・・・…驚かせて悪いな。ちょっとやってみたかったんだ。でもせっかくだから頂いて行こうか。」
お月様はそう言って嬉しそうに去っていった。
何がなくなったのかわからないまま家に帰り、鏡を見て気付いた。
その夜は恐ろしくて月を見ることができなかった。

2002年5月15日水曜日

AN INCIDIDENT AT A STREET CORNER

夕闇のなか、家路を急いでいた。
家につく最後の角を曲がったら、また、曲がる前の道に出た。
もう一度、曲がったら、今度は家の先の道に出た。
「なあ、早く帰りたいんだが、なんとかしてくれよ」
そう言うと、空が歪んで見えた。

2002年5月14日火曜日

見てきたようなことを云う人

「月の裏側は、真っ赤なのだ。黄色が不足したから」
「流れ星っていうのは、パチンコで飛んでるのだ」
「あの黒猫はもう248年も生きている」
そう言いながら向こうから歩いてきた男は、お月様と同じタバコの香りがした。

2002年5月13日月曜日

友だちがお月様に変わった話

友だちと喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
彼がトイレに立ち、戻ってきたのはお月様だった。
「俺の友だちはどうした?」
お月様は、黙って鏡の前に立った。

2002年5月12日日曜日

THE BLACK COMET CLUB

その団体は、とても有名だったが、何をしているのか誰も知らなかった。
皆、黒いマニキュアをして早足で歩くので、黒い彗星のようだ、と人々は噂した。

2002年5月11日土曜日

散歩前

散歩に出かけるため靴を履こうとしたが、靴が嫌がる。
ドアを開けようとするが、押し戻される。
ハテ?何か忘れ物でもしたのだろうか……。
ああ、椅子から立ち上がるとき、伸びをするのを忘れていた。

2002年5月10日金曜日

コウモリの家

その客は、一晩中、酒と花を愛でていた。
ただ、それだけだった。
こちらも、ただそれを見ているだけだった。
そして、彼は誰時になり
「では、失敬」
と窓から飛び出していった。
追いかけると、噂の幽霊屋敷へと入っていった。

2002年5月9日木曜日

黒猫を射ち落とした話

窓から見える塀の上を黒猫が歩いていた。
それはだんだんと巨大になり、しかもこちらに向かってものすごい速さで突進してきた。
銃を向けるとそいつはますます大きくなり、周りの景色は見えなくなった。
バン!
巨大猫は塀から墜落した。見に行くと、そこには大量の砂利が落ちていた。
むこうの屋根に黒いしっぽが見えた。

2002年5月8日水曜日

A TWILIGHT EPISODE

薄暮の街を歩くとき、まるで彼の地にいるような心地になる。
すべてが見慣れない景色になって、普段見えない人たちとあいさつを交わす。
あの黒猫ですら機嫌がよい。
夢でも現実でも構わない。
その中間、ってことはないんだから。

2002年5月7日火曜日

煙突から投げこまれた話

夜遅く、足早に家へ向かっていたら、上の方で、何かが二つ光って
「そんなに早く帰りたけりゃ、手伝ってやろう」と声がした。
襟首を持ち上げられて、家の上空まで運ばれ、煙突にポトリと落とされた。
「おい!痛いじゃないか!しかも身体中ススだらけだ」
「せっかく運んでやったのに。しかたがない」
すると今度は全身をぴちゃぴちゃと舐められた。

2002年5月6日月曜日

THE MOONRIDERS

THE MOONRIDERSは月の明るい晩にしか現れない。
誰にも気づかれることはない。彼らは精鋭なのだから。
それでも彼らを見たいと思ったら、よく晴れた満月の真夜中、自分の影としゃべりながら散歩してみればいい。
風もないのに影が揺らめいたら、それはTHE MOONRIDERが駆け抜けた証だ。
耳を澄ませば彼らの轟きを、鼻を利かせば彼らの煙を、感じられるかもしれない。

2002年5月4日土曜日

月のサーカス

あれは本当に現実に起こったことだと言い切れる。
テントの中で黒猫が火の輪をくぐって、お月様は綱渡りをしていた。
飛び入りで自分も参加した。
……気がついたら公園のブランコで居眠りしていたことは隠さないが。

2002年5月3日金曜日

電燈の下をへんなものが通った話

電燈の下を何かが通ったような気がして振り返ったが、何もなかったので再び歩きだそうとすると、また何か緑色の光がすぅっと通ったのでもう一度見ようとしたが、何も見えなくてあきらめようとしたのに、今度は耳のような形のものが跳ねるのを、確かに見たような気がするのだがよくわからなかった。

2002年5月2日木曜日

ココアのいたずら

熱いココアを作った。香りが部屋を満たす。
ゆっくり味わう。飲んでも飲んでも減らない。
カップを床に叩きつけた。飛び散ったココアで床上浸水。

2002年5月1日水曜日

THE MOONMAN

月の中で住んでいる人のほかに、
月であり、月でない月の男がいる。
地上に現れる月とは彼のことであり
地上での月の仕業は彼の仕業である。