2002年3月29日金曜日

A PUZZLE

月光を浴びた蝸牛はトマトジュースを滴らせ、そのトマトジュースを飲んだ鼠は甘い蜜になる。

その甘い蜜を嘗めた狐は尾から伊勢海老が生え、その伊勢海老を食べた蟷螂は泡を吹いて死ぬ。

蟷螂の死体と泡をつつくとキャベツが現れ、そのキャベツを食べたあなたは

2002年3月28日木曜日

A MEMORY

あぁ、そうか月の光はこんなにも明るかったんだ。

山の端が、白い。

昼間よりも美しい影が、空へ昇っていきそうだ。

祖先はきっと、こんな晩に旅したのだろう。

眩しすぎる満月に感謝しながら。

2002年3月27日水曜日

お月様とけんかした話

男がタバコを店員のいない隙に盗もうとしていた。

「いい年して、万引きかい?」

男は俺に掴みかかった。若い店員が驚いて出てきた。

俺は男のまんまるい右頬をぶん殴った。

男は右頬をかばうように、よろよろと逃げた。

男を追いかけて、店の外へ出ると男は消えていた。

俺は空に向かって、声を掛けた。

「やあ、お月さん。半月の気分はどうだね?」

2002年3月25日月曜日

月とシガレット

眠れずに過ごし、あたりが明るくなってきてしまった。 

庭に出て一服しながら、見上げると、白い月も紫煙を燻らせている。

「お月さんは、タバコお好きなんですか?」

「まあね。寝る前の一服がうまいんだ」

「それ、本当にうまそうだな。」

「どうだい?取り替えてみないか?」

月の吸っていたシガレットは、ひんやり黄色い味がした。

2002年3月23日土曜日

ある夜倉庫のかげで聞いた話

「明日から三晩は月が出ないんだって」

「なんだって?曇るのか?」

「いや、違う。なんでも月が旅行に出かけるらしい」

「えぇ?どこに?」

「オホーツク海の流氷を見に行くんだってさ」

「なんでまた流氷?」

「流星の参考にしたいんだと」

2002年3月22日金曜日

ハーモニカが盗まれた話

振り返ると、ハーモニカが無くなっていた。 テーブルの上に置いて、台所へ向かおうとしたその瞬間、白い影が横切り、振り返ると、ハーモニカが無くなっていた。

外に出ると、あたりは夕闇だった。

北東の空に白く輝く流れ星ひとつ。

冷たい風と木々のざわめき。

よく朝、ハーモニカはテーブルの上にあった。

氷の粒がびっしりついていた。もう、音は出ない。

2002年3月21日木曜日

流星と格闘した話

夜中に散歩をするのが好きだ。家々の灯りも消えた中、靴音と呼吸のリズムに没頭する。

角を曲がったところで、流星が勢いよくぶつかってきた。

「おい、なにするんだ」

俺は、流星に馬乗りになり殴りかかった。

流星に反撃され、形勢逆転。

「あ。ちょっと待ってください」

俺の顔を見た流星が言った。

「はあ?」

流星は、青く輝いていた。急用らしい。

「すみません、どうやら着地点の計算を誤ったようです」

「……人違いと言うことか?」

「はい、申し訳ないです。大変失礼しました。急ぎですので、失礼します」

そう言うと流星は消えていった。

パーンと黄色い光が遠くに見えた。今度は上手くやったらしい。

2002年3月20日水曜日

投石事件

ある晩、ドッシャ、と音がして振り向くと、床に握り拳大の白い石が落ちていた。

本棚があって、ニスの剥げた机と錆びたパイプ椅子、キゴキゴとうるさいベッドがある、私の部屋。窓からは、空と無花果の木が見える。 その部屋の真ん中に、石がいる。

窓は割れておらず、外には誰もいない。

見上げると月が笑っていた。

2002年3月19日火曜日

星をひろった話

街燈は今にも切れそうな暗さ。外套の前を合わせ、急ぎ足。

と、なにかにつまずいた。

見ると不自然な石が落ちている。拾って、手のひらに載せ、フッと息を吹きかけた。

ふぁァ。と光ったそれは身震いして空へ帰っていった。 「星だったか」

つぶやいて、再び急ぎ足。

2002年3月18日月曜日

月から出た人

ベランダから赤い月を眺めていたら、どんどんこちらに近づいてきて、いつのまにか、あたりは月だらけになった。

ガタピシ

眼の前に黒い四角が大きくなる。

白い髭に黒いサングラスをした男が出てきた。

「こちらにいらして、いっしょに茶でも飲みませんか。極上の玉露と、新潟の煎餅がありますよ」